第223話


第二回未攻略ダンジョンソロ踏破配信がスタート

した。


俺はすでに100万人近い視聴者に見守られながら、ダンジョン上層の通路を足早に進んでいく。


「この辺はちゃっちゃと行きたいと思います……とりあえず深層に辿り着くまでは飛ばします…」


いつも言っていることだが、視聴者が見たいのは俺がひたすら雑魚を作業のように屠るところではなく、強い深層モンスターと戦っているところだ。


なので深層配信ではいつものことなのだが、俺は深層に辿り着くまでは特にモンスターとのエンカウント報告もせず、足も止めずに最小限の時間で戦闘をこなし、できるだけ時間を短縮して進んでくつもりだった。


ゴブリン、オーク、ダンジョンビー。


そんな雑魚モンスターを足を止めずに屠りながら進んでいると、中層の終わりに差し掛かったあたりで雑魚の群れに遭遇した。



『グゲゲゲゲゲゲゲ!!!!』

『フシュゥウウウウウウウウ!!!』

『シャァアアアアアアアアアア!!!』

『ブモォオオオオオオオ!!!』

『キシェェエエエエエエ!!!』



数にして大体三十体ぐらいだろうか。


上層と中層に出現するモンスターが、奇声、咆哮、鳴き声を上げながら大挙して俺に襲いかかってくる。


「突っ込みます」



“群れきた”

“雑魚が群れてら^^”

”邪魔だなあいつら“

”どけよ雑魚ども。神木拓也様のお通りだぞ“

”蹴散らせ“

”殺せ“

”殲滅しろ“

”やれぇえええええええええええ“

”衝撃波パンチで吹き飛ばせ“

”一掃しろ”

”この程度の群れで危ないから逃げろと神木に偉そうに指示していた時代が俺にもありました“

”もはや脅威ですらない“

“おかしいなぁ……普通の探索者にとってはこの規模の群れって普通に脅威のはずなんだけどなぁ…”

”この危機感の無さw“

”足を止める価値すらない雑魚の群れ“



俺は足を止めずに群れに突っ込みながら、チラリとコメント欄を見た。


焦っているような視聴者のコメントはほとんど見当たらない。


昔はこれぐらいの群れに遭遇しただけで逃げろだの危ないだの無謀だの言われたものだが、もうそういう視聴者は一人もいなくなってしまった。


神木ならこれぐらい難なく倒せる。


なんの心配もいらない。


そんな視聴者からの信頼が伺える。



「超集中状態……神止」



俺はそんな視聴者からの期待に応えるようにこの間の未攻略ダンジョンソロ踏破配信で編み出した新技を早速披露した。


時が止まったかのように俺の周囲で動きがなくなる。


俺は止まった時間の中を走り、そのままモンスターの群れの間を通り過ぎた。


防御力もない雑魚の群れには、もはや攻撃する必要性すら感じなかった。



「解除」



群れの間を通り過ぎた俺は、超集中状態を解除する。


バシュゥウウウウウウウウ!!!


ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!



神止を解除した瞬間に、周囲に動きが戻った。


俺が超集中状態のまま通り過ぎた軌跡の至る所に歪みが発生し、そこから豪風が吹き荒れた。



『『『『『グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』




モンスターの群れの悲鳴がダンジョンに響き渡る。


俺が走った跡に発生した歪みが、収縮していく際に雑魚のモンスターたちを巻き込みバラバラにしていく。


モンスターの群れは、何が起こったのか理解することもなく、一瞬で歪に飲み込まれ、バラバラになって豪風で周囲に肉塊として散らばった。


やがてダンジョンの地面や壁が死体の回収を始める。



「…」



俺はもはや討伐報告の必要性すら感じずに、無言でどんどん歩みを進める。



”ファッ!?“

”ファーーーーーーーw w w w w“

”えっ!?“

“ぇえええええええええ!?!?”

“きたあああああああああああ”

“うおおおおおおおおおおお”

“どりゃああああああああああああ”

“今何した!?”

“何が起こった!?”

“画面途切れたぞ”

“まさか使ったというのか…?”

“早速きたあああああああああああ”

“画面途切れた”

“え、気づいたら群れを通り過ぎていたんだが!?”

“すげぇ…w本当にワープしたように見えるw”


いきなりの新技の仕様に、チャット欄は大いに盛り上がる。


何が起こったのか、察している視聴者もいれば、まだこの技をダンジョンで使うのが二回目であるため、何が起こったのかちゃんと理解できずに戸惑っている視聴者もいる。


俺は一応説明しておくかと思い、自分が今何をしたのかを説明する。



「皆さんが神止って呼んでる……超集中状態を使いました……止まった時間の中を動いで俺の動いた軌跡に歪みを発生させるやつです。詳しくは前回の配信のボス戦をご覧ください……その技を使って群れを倒しました…」



“やっぱりか!”

“うおおおおおおおおおお”

“早速きたああああああああ”

“神止すげえええええええええええ”

“どりゃああああああああああ”

“マジで瞬間移動じゃん”

“最強で草なんよ”

“どんなモンスターならこいつに勝てるんだ?w”

“踏破する気しかしないわw”

”人間じゃねぇw“

“もう大技出たか。まだ中層なのに豪華だな”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”



「この技強いんですけど、画面が止まったと思ったらいきなりワープしたみたいな感じの映像になるんですよ……ちょっとわかりづらいかもしれないけどご了承ください」



“おうw”

“わかったw”

“オッケーっすw”

“おいっすw”

“こんな時でも画面映え気にしてんのかw”

“了解です大将w”

“なんか草w”

“この気の抜けた感じが神木拓也よw”

”もうそういうのいいってw“

“なんだかなぁw”

”すげーことやってんのに本人がいまいち自覚ないのがw”

“こいつこれだけ強くて人気もあっていまだにこの性格なのある意味すごいw”

”盛り上がってまいりましたぁああああ!!“



「…」


俺は神止の説明を行いながらも、足を止めずどんどん中層の通路を足早に攻略し続けていくのだった。

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