第222話


「お、神木拓也だ!!!」


「まじで来たぞ!神木拓也だ!!!」


「神木拓也が来たぞ!!!」


「うおおおおおおおおお本物の神木拓也だ!!!」


「まじで神木拓也が来たぞ!!!」


「来てくれてありがとう神木拓也!!!」


「大将ぉおおおダンジョン配信頑張れぇええええええ」


「神木拓也頑張ってぇええええ」


「神木拓也まじで頑張れぇえええええ!!」



「はい、頑張ります。みなさんありがとうございます」



俺の元に一斉に押しかけてきて次々に名前を呼んだり声援を送ってくれたりする人々。


有名人を気取るわけではないが、最近こう言うのにも慣れてきた。


なんとなく対応もこうしたらいいんじゃないかってのがわかってきた気がする。



「神木拓也いつも配信見てるぞ!!!」


「大将まじで頑張ってくれ!!」


「神木お前の配信のおかげで元気もらってるぞ!!!」


「きゃああああ神木さまっ…生で見ると素敵!!!」


「神木様まじでかっこいい!!!」


「神木様いつも応援してます!!!」


「神木くん私たちの地元に来てくれて本当にありがとう!!!」



「はい、応援ありがとうございます。いつも見てくれてありがとうございます。感謝してます」



俺は視聴者を名乗り黄色い歓声を上げてくれる女性たちに手を振り、お礼を言いながら前方に見えるダンジョンに向かって歩いていく。


女性たちはキャアキャアと悲鳴のような声をあげ、俺と目が合うと一層に興奮したように甲高い声を上げる。


俺はそんな彼女たちに笑いかけたり、握手に応じたりと適度にファンサービスをしながら意識はひたすら今日の配信のことに向いていた。



= = = = = = = = = =



「はぁ…ようやくここまで辿り着いた」


とある他県の未攻略ダンジョンの上層。


ようやく応援に駆けつけてくれた人々の群衆の間を抜けてダンジョンにまで辿り着いた俺は、肩を落としてため息を開いた。


最近行く先々で人々が待ち構えていて本当に体力を消耗する。


もちろん応援は嬉しいし、人気の証左でもあって悪いことではないのだが、流石にどこに行ってもこれだとちょっとうんざりしてくる。


ダンジョンに潜った後より、潜る前の方が体力を使わされているような気さえする。


「ま、応援してくれる人は一人でも多い方がいい……気を取り直して配信だ」


俺は頬をパシパシと叩き、気持ちを切り替えると、機材を準備して配信開始ボタンを押した。



「今日はー…配信開始しましたー、聞こえてますかー?」



“やあ”

“やあ”

“やあ”

“やあ”

“やああああああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおおお”

“きたああああああああああああ”

“どりゃああああああああああああ”

“待ってたぁあああああああああ”

“始まったぁあああああ”

“やあ”

“やああああああああああああ”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”




恒例の挨拶“やあ”と共に視聴者が配信に流れ込んでくる。



「配信大丈夫みたいですね……回線とかも大丈夫ですか?声途切れてませんか?画質とか音質大丈夫ですか?」



“完璧”

“大丈夫だぞ”

“オッケー”

“問題なし”

“いつも通り”

“聞こえてるぞ”

“普通にぬるぬる動いてる”

“画質いいぞ”

“音質も問題なし”

“早く早く早く早く”

”まじで待ってた^^“

”楽しくなってきたぁあああああああ“

”昨日の夜楽しみすぎてまじで寝れなかった“

“昨日の寝顔可愛かったぞ”

“お前の寝顔可愛すぎて早速アイコンにしちゃった”

“お前の寝顔死ぬほど拡散されてるぞ”

“ちゃんと時間通りに起きれて偉かったぞ神木”

“神木様の寝顔神でした^^”

“神木くんの寝顔尊い尊い尊い尊い尊い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いでも他の人に見せてほしくなかったな私だけに見せてほしいとりあえず新しい画像DMで送ったから見てね神木様今回はちょっとだけ顔も映してますブスって思われたらやだな可愛いって言って欲しい胸も頑張って持ったつもり衣装にも気を遣ったよ神木くんはどんな女の子が好きなのかな好みがあれば言ってほしい”

“朝からやばいやつおって草”

“なんかやばいの沸いてて草”




どうやら回線の方は大丈夫のようだ。


今日は、あらかじめ宣言していた第二回未攻略ダンジョンソロ踏破配信の当日だ。


機材や配信の環境に間違いがあっては台無しのため、俺は入念にチェックをする。



「配信環境は大丈夫のようですね……それはそれとして、あの自分で寝配信しておいてあれなんですけど、早速俺の寝顔アイコンにするのやめてもらっていいですか?」



配信環境はどうやら完璧のようだ。


それはそれとして、チャット欄の視聴者たちのアイコンが、ほとんど俺の寝顔の画像で埋まっている。


これはつい先ほどまで止まっていた旅館で俺がやっていた寝配信の時の画像を使っているのだろう。


今日この他県にあるダンジョンに潜るために、俺は移動で一日の時間を要した。


なので三連休の初日は全く配信ができず、移動だけの日になってしまったのだが、せっかくなので何かしたいと思い、夜、止まっている旅館から寝配信をしたのだ。


配信にはいろんな種類があり、雑談配信や、ゲーム配信、アウトドア配信、ダンジョン配信、果ては寝配信というものまである。


寝配信というのは、端的に言ってしまえば寝ている配信者をただ映しただけの配信なのだが、これが意外に人気がある配信ジャンルなのだ。


好きな配信者の寝ているところをずっと見ていたり、一緒に寝落ちしたりしたいという層が世の中には一定数存在する。


そういうわけで俺は、連休の一日目、何も配信できない代わりに翌日までひたすら俺の寝ている姿を配信する寝配信を敢行したのだ。


その結果…



「というかあんなに同接集まるとは思わなかったよ……君たちちゃんと寝た?まさか徹夜してないよね?」



なんと俺の寝配信は同接50万人を記録してしまった。


ただ俺の寝ているところを配信しているだけなのにこれは驚異的な数字だ。


しかも普通寝配信というのは、夜が更けるにつれて同接がどんどん落ちていくものなのだが、俺の寝配信は何故か時間が経つと共に増えていっていた。


今朝ぐっすり眠った俺が起き抜けに同接を確認したところ55万人をこえる視聴者がいて本当に驚いた。


自分で寝配信しておいてなんだが正直人が寝ているところを五十万人の人間が見ているという状況がだいぶカオスだと思う。


本当に一晩中彼らは、ほとんど動きのない配信画面を見ていたのだろうか。


それだとなんか怖いから、寝落ちであって欲しい本当に。



“徹夜だお^^”

“もちろん徹夜した”

“神木が寝てるとこずっと見てたよ^^”

“徹夜したンゴ^^”

“神木寝相ちょっと悪くて可愛かったぞ^^”

“大将が寝てるとこずっと見てたお^^”

“大将の寝息ずっと聞いてたお^^”

“もちろん徹夜したよ^^”

“徹夜したわ^^”

“普通に徹夜した”

”神木の配信ってだけでもちろん配信の隅から隅まで見るぞ“

“寝るわけないだろ”

“寝てるやつとかいんの?”

”寝たやつはゴミ“

”寝たやつは帰れよこの配信みんな“



「いやおかしいのは君たちだよ普通寝落ちするでしょ…」



徹夜した、当たり前だよな?というようなコメントが怒涛のように流れる。


そしてそれらのコメント主は全員アイコンが俺の寝顔になっていた。


俺はなんだか怖くなってこれ以上寝配信について話すのはやめにした。


俺の信者の狂信ぶりを俺はまた見誤ってしまったかもしれない。


あとなんだか見たような文章のものすごい長文を買い込んでいる視聴者が約1名いるが気にしないことにした。



「そ、それじゃあ……いよいよ第二回、未攻略ダンジョンソロ踏破配信始めていきたいと思います……」



寝配信の効果もあってか同接はすでに90万人に到達している。


配信を始める前からもうすでに100万人を声そうな勢いだ。


チャット欄には英語や、その他の言語によるコメントもかなり見受けられる。


噂によると海外の配信サイトで俺の配信をミラーする配信者というのもいっぱい出てきているらしい。


明らかに前回の未攻略ダンジョンソロ踏破配信の後から、俺は日本だけではなく世界のダンジョン配信視聴者にも注目されているなというのを実感していた。


そんな新たにできたファンを失望させないためにも、今日のこの配信は成功させないとな。


ただ踏破するだけじゃなくて、見せ場をたくさん作れればベストだ。



「徹夜の人もしっかりついてきてくださいよ………それじゃあ、攻略スタートです」



片手剣を構え、ダンジョン上層の通路を歩き始める。


とりあえず俺は、徹夜でこの配信を見ている寝配信を完走した猛者たちが退屈で寝てしまわないような配信をしようとそんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る