第172話
「いやー、昨日は案外楽しかったなぁ…」
朝。
俺はいつもの時間に学校までの道のりをゆっくりと歩いていた。
くああとあくびが漏れる。
昨日遅くまでゲーム配信をしていたせいで若干眠い。
雑談配信のネタがないからと急遽チャンネルを作ってお試しでやってみたゲーム配信だったが、意外に盛り上がった。
ぺくーすという今流行りのバトロワfpsをプレイしたのだが、同接は最終的に50万人に届きそうな勢いだった。
まさかダンジョン配信者の俺がゲーム配信であれだけの人を集められるとは思わなかった。
「アンケート結果に救われたかもな……」
探索者としての能力が活かせるfpsはどうやら俺とは相性が良かったらしい。
視聴者アンケートによって俺はゲームジャンルとゲームタイトルを選んだわけだが、fpsをすることになって本当に良かったと今では思う。
結局あの後俺は五試合ほどをソロでプレイして、野良と共に全てのマッチでチャンピオンを取った。
ランク帯が低いのもあり、時間を遅くすることのできる俺のキャラコンを上回るようなプレイヤーはいなかった。
配信全体を通して、何度か明らかに低ランク帯の実力ではないような上手いプレイヤーにも遭遇したが、味方の助けもあり何とか勝つことができた。
結局俺は、全てのマッチでチャンピオンを取り、かつ一度もダウンすることなくゲーム配信を終えたのだった。
「楽しかったなぁ……次は視聴者参加型でもやるかぁ…」
ついつい野良とのマッチに夢中になって視聴者参加型を忘れていたが、次は視聴者とゲームをプレイしたりしてしっかり交流もしていきたい。
視聴者との交流は本来配信者の醍醐味みたいなところがある。
俺はダンジョン配信者なので、普段のダンジョン配信に視聴者を連れて行ったりすることは危険すぎるので出来ないが、ゲーム配信ならコミュニケーションも取りやすい。
同接もかなり取れることがわかったし、次は他のジャンルのゲームに挑戦したり、たくさんの視聴者と協力して建築系のゲームで巨大建造物を作ったりするのも面白いかもしれない、なんて思った
りもする。
「配信の幅が広がったのはいいことだよな…」
ダンジョン配信と雑談配信だけだと飽きる人もいるだろう。
配信できるジャンルが今回広がったのは、大きな収穫だと言えるだろう。
「なんか途中若干荒れてたような気がするが……まぁ、学校で祐介に詳しいこと聞くか…」
一試合目のマッチが終わった後、若干コメント欄が荒れたというか、「スマーフ」「スマーフやろう」「ざまぁあああ」などと言ったコメントがチャット欄に散見されたのだが、あれはなんだったのだろう。
おそらく俺が戦ったプレイヤーの一人にスマーフをしていた人がいたのかもしれないと俺は予想している。
詳しいことはわからない。
というか視聴者は相手がスマーフだとどうやって見破ったのだろうか。
詳しいことは昨日配信が終わった後すぐに寝てしまってわからないのだが、まぁ学校で祐介にでも聞けばいいだろう。
あいつはいまだに俺の配信を監視しているみたいだし、昨日の配信も見てくれていたはずだ。
情報通のあいつに聞けば、なぜ初めの試合の後に若干チャット欄が荒れていたのかもわかることだろう。
「…?」
そんなことを考えながら、俺は曲がり角を曲がろうとした。
その途中で、向こうからものすごいスピードで近づいてくる気配に気がついた。
このままだと衝突する。
そう思った俺は曲がり角の前で足を止めて、猛スピードで近づいてくる誰かが目の前を通り過ぎるのを待つ。
「どいてくださーーーーーーい」
「おっとと」
「あれっ!?なんで!?ホワイ!?」
そんなことを言いながら曲がり角に突っ込んできたのは女の子だった。
日本人にしては珍しい、かなりクッキリとした目鼻立ちの少女。
まるで外国人のような顔の造形だが、しかし髪と目は黒。
その口にはパンを加えており、見知らぬ制服に身を包んでいる。
(ふぅ…)
危なかった。
そのまま進んでいたら、間違いなくぶつかっていただろう。
俺は内心安堵の息を吐きつつ、目の前を猛スピードで通り過ぎて行こうとする少女を見た。
少女の顔にはまるで「こんなの想定外よ!?」とでも言いたげな表情が浮かんでいた。
「くっ…これがダンジョンサムライの反射神経というわけね。迂闊だったわ」
「…?」
「せっかく憧れの日本のアニメを再現しようと思ったのに……計画が台無しよ!こうなったら……強硬手段ね!!!」
「おいおいおいおい!?」
パンを加えながらものすごい勢いで俺の目の前を通り過ぎていったかと思った少女は、何を思ったのか、キキーッとブレーキをかけて止まり、直角にターンして何故か俺の方へ向かって突撃してきた。
「えいっ!!!」
「ごふっ!?」
そしてあろうことか、その少女は地面を蹴って俺に向かって弾丸のように突っ込んできた。
頭が腹に減り込んで、俺は尻餅をついてしまう。
「いやなんなんだよ!?」
痛くはない。
だが、あまりの出来事に俺はそう突っ込んでいた。
「やりました…!」
俺の腹へ頭突きを喰らわし、そして俺に乗っかって見下ろしてきているその少女の顔には、達成感のようなものが浮かんでいた。
やりました、とそう言った瞬間に加えていたパンがポトっと俺の顔に落ちてくる。
「ついにやりました…!憧れの日本のアニメを再現できました…!」
意味不明なことを少女が呟く。
俺は視界を覆っていたパンをどけて、少女を見る。
「い、いきなり何をするんだ……見えてなかったのか…?」
明らかに俺に向かって突っ込んできていた少女に俺は抗議の声をあげる。
だが、少女は俺の言葉なんか聞いちゃいない。
俺が手に持ったパンを奪い取ると、再びそれを口に咥えなおし、立ち上がって身を翻した。
「後は先に学校について、自己紹介の時にあの時の!!!ってやるだけだわ!!」
「はぁ…?」
「それじゃあ、またあいましょう、ダンジョンサムラ……いえ、見知らぬ日本人。バーイ!!!」
いきなり突撃してきてわけのわからないことを捲し立てたその外国人っぽい少女は、することは終えたとばかりに180度ターンして走って行ってしまった。
「えぇ…」
あまりの怒涛の展開に、俺はしばらくその場に呆然と立ち尽くして、少女の小さくなっていく背中を見送ってしまうのだった。
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