第141話


”いや、早すぎw w w“

”生き急ぎすぎだろw w w“

”こいつまじかw w w“

”いやいやいやいや、流石に無理があるやろw w w“

”いくらなんでも展開が早過ぎるw後一年は攻略済みダンジョンの深層に潜ろうぜw w w“

“未攻略って今までどんな深層クランにも踏破されたことのないダンジョンってことだろ…?流石に無理じゃね…?”

“え、もちろんソロじゃないよね?”

“未攻略ダンジョンに行くのは百歩譲っていいとして、流石にソロじゃないよな?”

”流石に今回ばかりはいくら大将といえども心配なんだがw w w“

”もうどこまでも行けよ神木w“

”好きにしろ。俺は出された飯を食うだけだ。お前がどこでどんな配信していても最後まで見届けるぞ“



配信が始まってそろそろ班時間ほどが経過しようとしていた。


引っ越しを考えいてることを視聴者に明かした俺は、満を持してタイトルを回収する。


未攻略ダンジョンに挑む。


すなわち、未だ誰も踏破したことのない本当の未知の領域に踏み入る宣言である。


とりあえず自分の決意を述べてから、俺はチャット欄を見た。


当然反応はさまざまだった。


今回ばかりは流石に無理がある、自殺行為、やめておいた方がいいという俺を引き留める反応。


反対に、もう好きにしろ、どこまでもついていくと背中を押す反応。


もう少し攻略済みダンジョンの深層に潜ってからがいいんじゃないかという間をとったような反応。


視聴者の反応はおおよそこの三つに分かれていた。



「い、いろんな意見があると思います……正直俺自身もまだ早いかなって思ってます……もう少し攻略済みダンジョンの深層に潜ってからでもいいんじゃないかと言う意見もよくわかります…」



初めての深層ソロ配信が随分前のことのように思える。


あの時も視聴者の反応は分かれていたが、その大部分は、流石に深層ソロ攻略は無理があるんじゃないかと言うモノだった。


俺自身も初めての深層ソロ探索に不安がなかったと言ったら嘘になる。


しかし蓋を開けてみれば、深層ソロ配信は大成功。


俺は特に命の危機に瀕するようなこともなく、攻略を成し遂げた。


その後の第二回の深層ソロ配信でも成功している。


第二回の深層ソロ探索配信では、若干苦戦したりもしたのだが、その都度俺は適応して、結局目標を達成してきた。


同接は最高を記録し、二百万人と言う大台に乗った。


あれは十分な快挙と言える出来事だっただろう。



「でも……俺は結局することになることを先延ばしにするのがあんまり好きじゃありません……自分で言うのもあれですけど…今俺は結構注目されていると思うんです。テレビにも出たし、最高同接200万人を達成しました。ここ最近の同接のアベレージも30万に届きそうな勢いなんです……今すごくいい流れがきていると思います……この流れのまま、俺はさらなる高みを目指したい」



”意識高すぎだろw w w“

“いやいやいや、もう十分やることやってるやろw w w”

“神木、お前が見てる景色、凄すぎて俺たにはわかんねぇよ;;”

“マジでどこ目指してんだw”

“ソロで未攻略ダンジョン踏破なんてやっちまったらマジで伝説とかじゃなくて神になっちまうよw”

“なんだろう…マジでお前って俺らと感覚違うんだなw”

“俺が神木だったらこのまま攻略済みダンジョンをダラダラ攻略して人気と金を維持するわw w wでもお前は違うんだなw w w”

“それでこそ神木拓也w”

“いや頑張りすぎやろw”

“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”

“今までの配信で俺ら十分過ぎるほどに楽しめてるから、本当に無理せんでええで”



もう十分やることやってる、お前は頑張ってる、あんまり無理はしてほしくない。


そんなありがたい視聴者からのコメントがたくさん届く。


しかし今行ったことは偽らざる俺の本心だった。

今の俺は自分で言うのもあれだがかなり世間に注目されている。


テレビにも出演したし、いろんな名前の聞いたことのある大企業から次々に案件が舞い込んできていることがその証左だろう。


現にこの雑談配信の同接もすでに30万人に届きそうな勢いだ。


ただの高校生の雑談が30万人の人間に聞かれるなんて尋常じゃない。


間違いなく俺は今、波に乗っていると言えるだろう。


であれば、俺は行けるところまで行きたい。


さらなる高みの景色を見たい。


そのために、俺は今まで誰も踏破したことのないダンジョン……未攻略ダンジョンに挑むことを決意したのだ。



「一応俺にも考えがあってですね……」



とりあえず一番大切な宣言をし終えたところで、俺はさらに自分の中で考えていることを視聴者に明かしていく。



「高みを目指すと言っても、流石に無謀なことに考えなしに突っ込むなんてことはするつもりありません……まずは未攻略ダンジョンの中でも簡単なダンジョンに挑みたいと思っています」



“ほうほう”

“未攻略ダンジョンに簡単とかねぇよw”

”何言ってんだこいつw“

“未攻略ダンジョンに簡単とかいう形容詞使ってんじゃねーよw”

“あれ…?未攻略ダンジョンって、今まで誰も踏破できたことがないから未攻略なんだよね…?簡単…?ん…?”

“感覚バグってら^^”

”あーあw救いようがねぇや^^“

”ちゃんと未攻略ダンジョン舐め腐ってていいね^^“

”神木。お前はそれでいい。それぐらいがちょうどいいんだ“

“ちょっと待って。未攻略ダンジョンに簡単とかないけどその前にソロで挑むのかどうかだけ教えて“

”どの未攻略ダンジョンに挑むかの前にソロかどうかだけ教えて“



未攻略ダンジョンにも一応等級というものが存在する。


今までにそのダンジョンに挑み、そして敗走したクランが多ければ多いほどその未攻略ダンジョンの等級は上がっていくのだ。


俺は何も、いきなりのっけから超等級が上の未攻略ダンジョンにソロで挑もうとしているわけではない。


流石にそれは自殺行為だろう。


なのでまずは等級が低い未攻略ダンジョンに挑んで、感覚を知ろうとそう考えたのだ。



「あ、もちろん攻略はソロです。パーティーを組んだり他のクランの手を借りるつもりはないです」



ソロかどうか聞かれたので早めに答えておいた。


今の所パーティーを組む予定はない。


ソロ攻略であることに意義があると俺は思っている。



”ですよねw w w“

“知ってたw w w”

“聞いた俺らが馬鹿だったわw w w”

“うーんこのw”

”神木拓也最強!w“

”くっっさw“

“孤高の神木拓也が他の探索者と馴れ合いするわけないよなぁ!?”

“馴れ合い4”

“お前は馴れ合うな。常に孤独であれ”

”まぁぶっちゃけパーティーなんて組んでも邪魔なだけだしな。お前ぐらいの化け物はソロがお似合いだよ“

“驚いてるやついるけどむしろソロの方がいいだろ。神木のレベルについてこれない深層探索者とか足手纏いなんだよ”

“わざわざ”仲間“とかいうお荷物を背負う必要はねぇよなぁ!?”

”俺はソロだ!wな神木さんカッケーw“

“まあそうだよなwお前は当然のようにソロだよなw”



「それでですね……俺が見つけた簡単な未攻略ダンジョンについてなんですけど……みなさん、ミステリーダンジョンって知ってますか?」



“あ“

”あ“

”あ“

”まずい”

“ひん”

“え”

“まじ…?”

”正気…?“

”w w w“

”いや、知ってるけど流石にそれは…“

“やっぱこいつ簡単の使い方間違ってるわw”

”よりにもよってそこに目をつけたのか…“

“だめだこいつw早くなんとかしないとw”



この反応を見るに、視聴者はミステリーダンジョンについて知っているようだった。


ミステリーダンジョン。


未攻略ダンジョンには、固有名詞がつくことが多いのだが、俺が今回クリアしようとている未攻略ダンジョンはそう呼ばれている。


このダンジョンは少し特殊なダンジョンであり、探索者界隈やダンジョン配信界隈では非常に有名なダンジョンだ。


要するに難易度のベクトルが違うのだ。


ほとんどの未攻略ダンジョンが未攻略たる所以は、出現モンスターの強さによるものだ。


深層探索者が束になっても勝てないような化け物モンスターが出現する故に攻略困難、未攻略のまま放置されているというのがほとんどの未攻略ダンジョンの事情である。


しかし、このミステリーダンジョンは、モンスターが強いから未攻略なのではない。


むしろ出現するモンスターは極端に少なく、積極的に襲いかかってくるモンスターはこれまでのところ確認されていないらしい。


ではなぜこれまでどのクランもこのダンジョンを踏破できなかったのかというと、それは全ての階層に、解くのが困難な数学的ギミックが存在し、それらをクリアしないと進むことが出来ないからである。


要するにミステリーダンジョンとは、他のダンジョンとは違い、強さではなく賢さを試されるダンジョンなのだ。



「みなさんご存知のようでよかったです。そうです、今回俺が挑もうとしているのは未攻略ずみダンジョン、ミステリーダンジョンです」



“無理”

”無茶“

”無謀“

“絶対に無理”

”無理!ほんと無理!!“

“流石に自殺行為”

“やめとけ”

“マジでやめておいた方がいい”

“絶対にやめろ”

”頼むから考え直せ“

”むしろお前が一番不得手なダンジョンだろw“

“馬鹿なのかな?“

”簡単の意味を辞書で引きなおせ“

”ミステリーダンジョンに考えなしに挑もうとしている今のお前の脳みそでミステリーダンジョンを攻略できるはずないだろw“

“脳筋の代名詞みたいなお前が、数学者でも踏破でいなかったミステリーダンジョン攻略できるはずないだろ”



「なんで!?」



いい考えだと思ったのに、視聴者から全否定を喰らってしまった。



「いや、みなさんあれですよ…?俺、こう見えても数学は結構得意ですからね…?」



英語や国語能力など、語学系が結構だめな俺は頭が悪いと思われがちだが、数学に関しては若干の自信がある。


だからミステリーダンジョンの謎解きも、意外となんとかなるんじゃないかと思ったのだが、視聴者の意見は違うらしい。



“ミステリーダンジョンにはその昔、数学者を伴った深層クランが潜ったこともあるんだぞ?結局数学者を守りきれずに死んでしまって、踏破は不可能だった。お前一人じゃ絶対に無理”

“数学者が解けなかった問題をお前に解けると?”

“大将;;流石に無謀すぎます;;”

“お前頭脳派キャラじゃないだろw”

“お前脳筋キャラだろw w wミステリーダンジョンに挑むとか身の程を弁えろw”

”勉強に関しては、お前の自己評価はマジで当てにならねぇw“

“数学得意って高校生レベルだろw w wミステリーダンジョン舐めすぎw w w”



初の未攻略ダンジョンの挑戦は日本で最も等級が低い未攻略ダンジョンであるミステリーダンジョンにする。


グッドアイディアだと思ったそんな考えが、まさか視聴者に全否定されてしまうとは。



「あ、あれですよ…?ただ単に数学が得意って理由だけで選んだんじゃないですからね…?ほら、ミステリーダンジョンって、みなさんもご存知の通り、ほとんどモンスターとの戦闘がないからドロップ品が落ちないじゃないですか…だから、今までどのクランも儲けにならないから真剣に攻略しようとしてこなかったわけですよ!!なので、数学が得意でダンジョン探索がもっと得意な俺がやれば意外と簡単に攻略できるんじゃないかって思ったんですよ…!」



俺がミステリーダンジョンに挑もうと思った1番の理由がそれだ。


ミステリーダンジョンは、謎解きがメインのダンジョンであり、モンスターとの戦闘が少ない。


モンスターとの戦闘がなければ当然ドロップ品も手に入らず、探索しても全然金にならないダンジョンとなっている。


そのため、ほとんどの深層クランが今までミステリーダンジョンには見向きもしない状態が続いていた。


今までミステリーダンジョンに挑んだ深層クランは、片手で数えるほどであり、全て駆け出しの深層クランで、名声欲しさにミステリーダンジョンに挑んでいる。


結局彼らは、謎解きをクリアできずにギブアップして地上に戻ってきている。


要するに、探索者界隈は今まで、ミステリーダンジョンを真剣に攻略してこようとしなかったのだ。


一度だけ、数学者を伴った下層クランがミステリーダンジョンに挑み、いいところまで進んだという話だったが、結局数学者を守りきれず途中で死なれてしまい、惜しくも攻略とはならなかった。



「み、みんなが言っている、数学者を伴ったパーティーがかつてミステリーダンジョンに挑んだ話は知っています!!けどそれは、謎が解けなかったからではなく、パーティーが数学者を守りきれずに数学者が命を落として誰も謎解きをすることができなくなったから、未攻略となったんです!お、俺の場合は、まず自分の命を守れないと言ったことはないと思います。なのでじっくり謎解きに時間が使えるわけですよ!!」



“うーんw”

“それはそうかもしれんが…”

“不安しかない”

”名案のように言ってるが普通に無謀だろ“

”やばい。なんかいけるかもと思ってしまった。俺って洗脳済み?“

”まぁ好きにしたら?ミステリーダンジョンは命の危険はあんまりないって言われてるわけだし、挑戦してみる分にはいいやろ“

”まぁお前の好きにしろ。俺は無茶だと思うがどうせ止めたって聞かないんだろ?“

”でも謎が解けなかったらどうするの?“

”無駄足になると思うけどなぁ“

“自分の数学力に絶望して一階層も突破できずに地上に帰還する大将の姿が今から目に浮かぶんですが……”

“まぁ頑張れw応援してるでw”



俺の説得が成功したのか、はたまた呆れられたのか。


ともかく、ミステリーダンジョンはあまり命の危険がないということもあって、最終的に配信は俺のミステリーダンジョンソロ挑戦を肯定する流れになったのだった。

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