第140話
「さて…配信やるか…」
とある休日。
日中にある用事を済ませてきた俺は、夜遅くに配信枠をとる。
今日は視聴者と相談してある重要なことを決める雑談枠をしようと思っている。
配信設定を確認し直し、キーボードを叩いて配信タイトルを打ち込む。
配信タイトル:そろそろ未攻略ダンジョンに挑戦する時だと思っています
「よし、これでいいかな」
あらかじめ決めていた配信タイトルを打ち終えて、俺は配信開始ボタンを押す。
“やあ”
“やあ”
“やあああああああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおおお”
“きたああああああああああ”
“やあ”
“待ってた”
“やあ”
“やあ”
”どりゃああああああああああああああ
“にょっす!w”
“来ると信じてた”
”あにー?やってるー?^^“
配信を始めるとすぐにチャット欄が「やあ」の文字で埋まる。
同接が2万、3万と増えていくのを横目に、俺は配信開始をお知らせする呟きを投下する。
”昼間は案件お疲れ様“
”案件見たぞ“
”メルダム配信お疲れ“
“今日は二度も配信してくれんのか。嬉しいわ”
”体大丈夫かw“
”あんまり無理すんなよ“
”一日に二度も配信してくれる大将に感謝“
”昼間のは案件放送だったのか“
”なんかメルダムを騒がしてたらしいな“
”もうメルダムでは配信しないの?“
”お前最近結構案件とか受けるよな。なんかあったのか?“
”ついにお前も◯国マネーに屈してつーべからメルダムに移行かと思ったが、案件だったのか“
“お前がどこで配信しようが俺はついていくぞ!!!”
”マジで体大丈夫か?休んだほうがいいぞ?“
「よし…呟き終えました…それでは改めて、今日は雑談配信をしていきたいと思います」
チャット欄を見ると、一日に二度目の配信に、俺の体を気づかようなコメントも目立つ。
というのもこの雑談枠は今日二度目の放送で、一度目は日中にやったダンジョン配信だ。
つい二週間ほど前に受けた新興配信サイトメルダムからの案件放送で俺はダンジョン配信を行おうとしたのだが、あまりに人が集まりすぎてサーバーが耐えきれずにサイトが落ちてしまった。
そのせいで案件放送はまた後日ということになり、今日がその当日だったのだ。
今回はメルダムも大人数がくることを予想してサーバーを増設し、最大で三十万人の同接にも耐えられるようにしてくれたために、前回のようなサイトにアクセスできなくなるトラブルは起こらなかった。
しかし五時間に及んだ配信の最後らへんは、同接が25万人ほどに達し、サイトがだんだんと重くなり始めていた。
後一時間も続けていたら、ひょっとしたらまたサーバーが処理落ちしてしまっていたかもしれない。
俺は前回みたいなことにならないようヒヤヒヤしながら配信していたのだが、結果的に無事に案件放送を終えることが出来た。
そして現在、案件放送を終えて仮眠をとった後に、雑談配信枠をとったという次第である。
「体の心配ありがとうございます。仮眠をとったので体力に関しては大丈夫です。昼間の案件放送を見てくれた人、本当にありがとうございます」
”最近結構いろんな案件受けてるけど、なんでー?“
”別に案件なんて受けんでもスパチャで十分暮らしていけるやろ“
”別に案件ぐらい好きに受けさせてやれよw“
”これからメルダムでも配信するのー?“
”最後らへんまた前回みたいに配信重くなってたからいつ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤしたぞw“
“いくらもらったのー?^^”
”別サイトであんだけひと集められるお前はやっぱ別格だわw“
”神木拓也は“モノが違う”ねw“
“もしかして女でも出来たんですか大将。高級バッグとか買わされてないですよね…?”
“大将まさか……最近案件ばっかり受けてるのってその歳で夜の遊び覚えてお金がたくさん必要になったとか…?”
“大将が夜職に貢がされてたら俺泣いちゃう;;”
「お気づきかと思いますが、最近結構俺案件とかを受けさせてもらってます……その理由は、えっとですね…いや、その、へんな遊びを覚えたとか、金稼ぎに走ったとか、そういうことじゃなく……大丈夫です、大丈夫です、バッグ買わされたり夜のお姉さんに貢がされたりしてないですから……その実は……引っ越しを考えてまして……」
最近俺がいろんな案件を受けたり、賞金目当てで探索者の格闘大会に出たりしていることに疑問を持っている視聴者が多いみたいだ。
別に隠す理由もないので、俺は正直にお金を稼ぎに行っている理由を話す。
「いつまでも実家にいたら家族にも迷惑がかかるので……どこかに家を建ててそこに住もうと思ってるんです」
”なるほど“
”引っ越しか“
”なるほどねー“
”いいね“
“めっちゃでっかいの建てようぜ”
“真っ当な理由でよかったぁあああああ”
“そういうことか”
“引っ越しかぁ。確かに金かかるよなぁ”
“一戸建て建てるのか”
”高校生で一戸建て建てて一人暮らしってすげーな“
”神木がなんか信条が変わったのかと思って心配したわw“
“悪い遊びを覚えたわけじゃないのねw”
”別に女遊びしてようが何してようが、配信してくれたらそれでいいよ“
”別に大将の私生活に興味はないわw元気でいつまでも配信してくれ“
”お前らが色々詮索するから…“
俺が最近金稼ぎをしている本当の理由を聞いて、視聴者の間に安堵の空気が広がる。
なんかよくわからんが、俺が悪い遊びを覚えて夜職の女性に貢がされている、なんて噂があったらしい。
なんだそれ。
そんなわけないだろ。
「配信で入ってないんですけど……実は結構実家にいたずらとかされていて……生卵投げられたりピンポンダッシュされたり……たまーに待ち伏せしたり、盗撮されたり……あと、ピザを注文されて送り付けられたりしてるんで……それで結構家族にも心配かけてるんですよ」
“ひん”
”ひひんがひん“
“お前らさぁ…”
“大将;;”
”馬鹿のせいで大将の家族が困ってます。ちゃんと反省しろ“
”そんなやつ普通にぶん殴れ“
”卑怯な奴がいるなぁ…“
”マジでそういうことする馬鹿って一定数いて絶対にいなくならないよな“
“だっっっっっっる”
“まぁ、人気配信者はどこもそんな感じだって聞くな”
“住所バレした人気配信者の宿命やね”
“これのせいで動画投稿者とか人気配信者は大体半年スパンで済む家変えたりするって聞くね”
“治安わりーなw”
「なので、いっそのことどこかに家を建ててそこを配信拠点にしたいというか……そこの住所公開するんでイタズラはそっちにお願いします。実家は勘弁してください。俺になら何してもいいんで……」
ネットで活動している以上、こういう嫌がらせが絶対に無くならないのは俺もよく知っている。
チャット欄での言及もあったが、つーべの動画投稿者や配信者がしょっちゅう引っ越すのは、大抵タチの悪い視聴者に原因があることが多い。
おそらく俺に対するイタズラは、いくら注意喚起しようが、訴訟しようがなくならず、ネットで活動する限り続くことになるだろう。
ならばせめて家族に迷惑をかけないように、俺は配信拠点を移し、そこの住所を公開する。
そうすれば実家ではなく、俺の家にピザや謎のエログッズが送られてくることになり家族に心配をかけたりストレスを与えたりすることがない。
俺としてはそっちの方が望ましいのだ。
“家族思いの大将すこ”
“自ら人柱に;;”
”一戸建て建てて一人暮らしすんのか“
”住所公開するの強過ぎるwまぁお前の場合隠してもすぐに特定されるだろうが“
“遊びに行ってもいいですか?“
”そんな悲しい理由の引っ越し聞いたことないお;;“
“大将も色々大変なんやね”
”頑張れ神木;;応援してる;;“
”ネットは底辺の掃き溜めだからな。そういうのが面白いと思ってる連中に絡まれちゃうのは仕方ないね“
“マジで何歳になってもガキみたいなことでキャッキャしてる奴っているからな。注文してないピザ送ったら面白いやろなぁ(ニチャァ)みたいな感じでやってるんやろな”
¥50,000
大将、お疲れ様です。これ引っ越し費用の足しにしてください
¥50,000
神木マジでお疲れ。引っ越し頑張ってくれ。もしきついなら配信少し休んでもええんやで
¥30,000
高校生なのにそこまで家族のこと考えられるなんてしっかりしてるなぁ…
マジで応援してるから頑張ってくれ
「あ、皆さんスパチャありがとうございます。なんか深刻そうな感じで喋っちゃいましたけど、別にそんなにやばいことは起きてないんで今んところ……とりあえず近いうちに引っ越すというご報告だけさしてもらいました」
事情を聞いて同情した視聴者からたくさんのスパチャが届く。
俺はとりあえず一刻も早く引っ越しをして、家族に迷惑をかけない状態で配信ができる環境を整えようと決意した。
「それじゃあ、今日の本題に入りたいと思います…」
“きた”
“待ってた“
”タイトル回収きたぁあああああああ“
“タイトル回収きたか?”
“タイトルはよ回収しろ”
“配信タイトルこれマジなん?”
“きたあああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおお”
”本気か?流石にまだ早くない?“
”面白くなってきたぁああああああああ“
“生き急ぎすぎやろwもうちょい攻略済みの深層に潜ってからでよくね?w”
“すでに攻略済み深層じゃ物足りなくなったかw”
”本題きたぁああああああああああ“
”もうどこまでも行けよw一生ついていくからw“
引っ越しの話が終わり、いよいよ本題に入る。
視聴者が盛り上がる中、俺は単刀直入に切り出した。
「あの……前置きなしで言うと、次の週末にいよいよ未攻略ダンジョンに挑戦したいと思っています」
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