第131話
「お、帰ってきたな。おかえり、大将」
「なんだよ大将って。俺の視聴者みたいな呼び方はやめろ」
「神木拓也最強!ってか?お前の視聴者のノリ、俺は好きだぜ?」
「こっちは手を焼いているんだ」
「それで?どうだったんだよ?」
「…別になんでもなかった」
「はぁ?そんなわけないだろ。わざわざ校内放送での呼び出しだろ…?あの恵美ちゃんを怒らせるようなこと、なんかやらかしたのか?」
「…いや、本当になんでもなかったんだ…ただ、このままだと夏休み補講になるからもう少し英語頑張れぐらいのことだったんだ」
「…本当かよ。あの恵美ちゃんがそんなことで生徒を呼び出すかね?」
祐介は俺に訝しむような視線を向けてきたが、俺は恵美ちゃんと約束した手前、本当の呼び出し理由を口にできるはずもなく、黙秘し続けた。
「ま、いいか」
結局祐介はしばらく経って諦めて、別の話を始めた。
俺は内心安堵しながら、祐介と雑談をしてホームルームまでの時間を潰したのだった。
「こんにちはー……今日は家で雑談配信していこうと思ってます…よろしくお願いしまーす……」
その日の放課後。
俺は帰ってシャワーを浴びて着替えてから早速枠をとった。
今日はダンジョン配信ではなく、家で雑談……いわゆる家雑をするつもりだった。
二度目のテレビ出演のことなどについて、視聴者と話す予定だった。
“やあ”
“やあ”
“やあ”
“どりゃあああああああああああ”
“きたあああああああああああ”
“待ってた”
“にょっす!w”
”おいっす“
”やあああああああああああああああ“
“わぁ!?”
“神木待ってたぞ!”
”来ると信じてた“
“今日も配信ありがとう”
”どりゃどりゃどりゃ“
配信始まりの恒例の挨拶“やあ”と共に視聴者が続々と集まってくる。
開始して数分で視聴者は十万人を突破した。
この間のテレビ出演の効果ももちろんあるのだろうが、ここ最近は雑談配信でもコンスタントに十万人を超えるようになってきたため、驚きも無くなってしまった。
冷静に考えて、高校生の雑談を十万人以上の人間が聞いているという状況はなかなかに凄いのだが、特に緊張はなかった。
俺もいつの間にやら感覚が麻痺してしまったらしい。
同接5人とかで喜んでた時代た遠い過去のように思える。
「今日は雑談配信やっていきます…よろしくお願いします…」
“家雑だああああああああああ”
“今日は雑談配信か”
”大将の雑談も待ってた“
”神木は何気にトークも行けると思っているここ最近“
“大将のまったり雑談すこ”
“テレビ見たぞ”
”テレビ出演おめ“
”テレビ見てきました“
”この人が神木拓也ですかー?“
”テレビから来たんですけど、最後のあれ、流石にやらせですよね…?“
”テレビ見てきました。最後のあれ、なんですか?CGとかですか?ダンジョン配信とかよくわからないんですけど…“
「皆さんテレビ見てくれました…?」
“見た”
“見たぞ”
”見たんご“
”見たおー^^“
”もち“
”当たり前だよなぁ!?“
”見ました“
”テレビから来ました“
”つーべにアップされてる違法視聴で見たお^^“
”テレビないから違法アップロードでみたおー^^“
“久々にテレビつけてみたわ”
“テレビから来ました”
“テレビ見てきました”
“テレビからここにたどり着いた新参どもがいっぱいいるねぇ^^”
“今日新参多いな。売名成功した証拠やん。よかったな神木”
この間の俺のダンジョン探索地上波生配信の放送を見てくれたのか尋ねると、チャット欄には「見た」「見ました」「もちろん」という報告がずらりと並んだ。
普段テレビつけないのだが、久しぶりに俺のためにテレビをつけてみてくれたというコメントもある。
ありがたい限りだ。
テレビの放送中は、俺の実況スレも立ち上がっていて、そこでも視聴者が盛り上がっていたらしい。
またチャット欄には、テレビを見てここにたどり着いた、という視聴者もたくさんいた。
どうやら売名はうまくいったらしい。
同接もどんどん伸びており、現在15万人に届きそうな勢いだ。
¥500
初見です。テレビから来ました。あの……最後のドラゴンのやつ、あれってやらせですよね?すごくリアルだったんですけど作り物ですか?それとも、CGか何かですか?
「あ、スパチャありがとうございます…初見さんいらっしゃい。テレビを見てきてくれたんですね。ゆっくりしていって下さい……えーっと、あれはやらせじゃなくて…本当に番組内であんな感じのハプニングが起こった感じですね……」
“新参きたああああああああ”
”よお新参“
”やらせじゃねーよカス“
”なんだこいつ“
“新参は3ヶ月ロムれな?^^”
”新参は黙ってみとけ“
”新参香ばしいねぇ^^“
“やらせじゃないんだよなぁw”
”気持ちはわかるぞ新参“
”新参くんとりあえず1ヶ月神木の放送見ようか。それからコメントしようね?^^じゃないと恥かくことになるから“
スパチャが飛んでいたと思ったら投げてくれたのはどうやらテレビを見てこの配信に来てくれた新規の方で、しかもあの番組の最後のハプニングをやらせだと勘違いしてしまったようだ。
確かにそう思ってしまうのも無理はないが、しかしあれはヤラセなどではない正真正銘のイレギュラーだった。
そのことを説得しようとするも、うまい方法が思い浮かばない。
「本当にヤラセじゃないんです…確かにピンチな探索者がたまたま目の前に現れるなんて都合のいい展開はやらせに思われるかもしれないですけど…本当に違くて…」
”そっちじゃねーよw“
”違うだろ神木w“
”いや、別にそこに引っかかってるんじゃないやろw“
”どう考えても神拳だろ“
”神拳がおかしいって言ってんだろw“
”大将の天然出ちゃった^^“
”そっちじゃねーんだよなぁ…w“
”うーん、このw“
”今日も大将は平常運転です、と“
「え…?ん…?」
助けを求めるようにチャット欄を見たら「そっちじゃねーよ」「違うだろ」と言ったコメントで溢れかえっていた。
どういうことだろうか。
俺が首を傾げていると、先ほどの視聴者からまたスパチャと共にコメントが来た。
¥500
ヤラセじゃなかったんですね。いきなり疑ってすみませんでした。新規の視聴者は1ヶ月?それとも3ヶ月?コメントしてはいけないってルールがあるみたいですね。わかりました。これからしばらくはコメントしないで潜伏しておこうかと思います
「あ、いや…わかってくれればそれで…これから見てくれるんならありがたいです…あとそれからコメントはしていいですからね?別に何ヶ月ロムらないといけないとかそういうルールはないですから」
“だめ”
’ロムれ“
”新参は最低1ヶ月はコメントすんな“
“ダメだぞ”
“新参は黙ってみとけ“
”新参は黙って出された飯をくっとけ“
”新参はロムれ“
”皆が通る道だ。ちゃんとロムっとけ“
”大将;;“
“草”
“同調圧力えぐいなこの配信”
俺がコメントしてもいいと言ったのに、視聴者はコメント欄でダメだと言い出す。
俺はどうしていいか分からずに困ってしまった。
最近俺の視聴者の間でまた新たなルールが出来つつあって、それは新規の視聴者は最低1ヶ月はロムる……つまりコメントを一切せずに視聴するというものだった。
なぜこんなルールができているのかは分からないが、なんだか俺の配信では俺の知らないところで視聴者たちが次々に配信の暗黙の了解みたいなのを生み出していくのだ。
まぁ本人たちは楽しそうなので放っておいているのだが……
¥500
なんだか面白そうな配信ですね…本当に知らずにコメントしてしまいすみません。これからしばらくはコメントせずに配信楽しみたいと思います!
「新規に気を遣われとるやんけ…」
先ほどの新規の方から、気を使ったようなスパチャが届いた。
強情な俺の視聴者を見て、色々察してくれたようだ。
…ちなみにその新規の方はそれからというもの視聴者の作ったルールをしっかり守り、無言でスパチャを投げてくれるようになり、視聴者の間で認知され、神木ファンの一人として受け入れられたのだった。
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