第232話
「さて…次はお前らだ」
ファイアードラゴンを倒した俺は、残る二体、ドラゴンゾンビと不死竜を見据える。
『グギャァアアアア!!!』
『グォオオオオオ!!!』
2匹は鳴き声をあげて俺を威嚇するが、しかし仕掛けようとはしない。
ファイアードラゴンを倒した俺を見て、警戒しこちらの出方を伺っているようだった。
“あと二体!!”
“いけええええええええ”
”やれええええええええええ“
“どっちも生命力強いぞ”
”神突きもう一回撃つべ^^“
“お?ビビってんのか?”
“さっきの威勢はどうした?”
“大将にビビってら^^”
“大将が強すぎて引いてるやん”
“内心「うわ、この人間やっば…」とか思ってそうw”
”腰引けてんぞドラゴンども^^”
“怖いのか?w”
”ドラゴン戦始まってから同接の増え方えぐいな“
”やっぱドラゴンは画面映えするよな。同接えぐいわ“
”おいさっきのドラゴン倒した神突きもう拡散されてんぞw“
“やばいwさっきの大将の神突きの動画切り抜いて自分のアカウントで投稿してみたんだけど反応がえぐいwちょっと切り抜き師どもの気持ちがわかったかもしれんw”
“おーい、神木。早くもトレンドがお前で埋め尽くされてるぞー^^”
チラリとチャット欄を見ると、ものすごいスピードでコメントが流れている。
この上位ドラゴン三体との戦闘に入ってから本当にチャットや同接の伸びが凄まじい。
チラリと視界に映ったコメントでは、現在先ほどの俺の新技の動画が早くも切り抜かれて拡散されており、またSNSのトレンドも俺関連のワードで埋まっているらしい。
ドラゴンは画面映えする。
できればもう少しこの戦いを引き伸ばしたい。
だが、あまり引き伸ばしても昔から俺のことを見てくれている視聴者は引き伸ばしの意図を察して少しくどいと感じるかもしれない。
長く配信を見ている視聴者というのは、意外と配信者が同接のために見所を間延びさせて引き伸ばしを図っていることを見抜き、指摘してきたりする。
今日きてくれた新規の人たちを楽しませるのも重要だが、長く見てくれている人を軽んじるのもまたいけない。
配信とはこの新規を取り込みながら、古参の視聴者も大事にするバランス感覚が大切なのだと俺はこれまでダンジョン配信をはじめとした様々な配信を見てきたことである程度知っている。
なのでここは苦渋の決断だが、本気を出して、一気に残りの二体を片付けてしまうことにした。
『グギャァアアアアア!!!』
『グォオオオオオオ!!!』
俺の殺気を感じ取ったのか、2匹が互いを庇うようにして身を寄せ合う。
そして不死竜の方が、見たことのある挙動をし始めた。
「あれは…」
見たことがある。
おそらく不死竜が毒ガスを全身の気功から噴出する時のモーションだ。
「なるほど…ドラゴンゾンビは毒ガスを喰らっても死なないから……自分たちに有利なフィールドを展開できるということか」
なんとなく2匹のやろうとしていることがわかった。
おそらく今から不死竜が全身から毒ガスを噴射し、毒ガスに満ちたフィールドを作る。
その中で俺は身動きを限定され、毒ガスの攻撃がおそらく効かないドラゴンゾンビが俺を一方的に襲撃する。
竜種というのはモンスターの中でもかなり知能が高い方と言われているので、これぐらいの連携は取ったとしても不思議じゃない。
ファイアードラゴンが倒されたことを持って俺を警戒すべき強敵と認識し、互いの特性を活かした戦い方で俺を倒そうと目論んでいるのだろう。
「させるかよ」
毒ガスのフィールドが周囲に展開されたら厄介だ。
不死竜はおそらくその回復力を活かして、ちょっとやそっと攻撃を加えられても毒ガスの噴射をやめないだろう。
放っておけば俺は自分に不利な状況での戦闘を強いられることになる。
それは少々面倒だ。
なので俺は容赦なく今日何度目になるかわからない神止を使用した。
「神止」
次の瞬間世界から音が消えた。
不死竜もドラゴンゾンビも、まるで彫刻のようにぴたりと動きを止めている。
ほとんど止まった時間の中を移動して難なく不死竜とドラゴンゾンビに接近した俺は、二体に向かって神拳を使用した。
「神拳・二連撃」
二連撃で放たれた神拳が、2匹の体の中心部分に命中する。
実に呆気なく勝負は決した。
時が動き出せば、2匹は自分たちが認識する間も無く致命傷を与えられ、すでに敗北したことを知ることになるだろう。
「神止・解除」
俺は神止を生み出す超集中状態を解いた。
“お”
“お”
“あ”
“あ”
“これは…”
“使ったな”
“途切れた”
“止まった…ということは”
“きた”
“戻った‘
”きたか?“
“使ったか!?”
“これは…!”
止まっていたチャット欄が動き出し、いい加減何が起こったのかを察した視聴者のコメントが流れ出す。
すでに2匹を通り越した位置まで進んでいた俺は、振り返って致命傷をすでに与えられている上位ドラゴンたちをカメラで捉える。
「こんな感じです」
ブゥウウウウウウン!!!
ビュォオオオオオオオ!!!
『グギャッ……ァアアアアアアア…』
『ォオオオオ…グォオオオオオ……』
俺の軌跡に発生した歪みが風を巻き起こし、二つの黒の奔流がドラゴン二匹の体を削り取り消失させていく。
二匹が絶命し、倒れ、ダンジョンの地面に飲み込まれていくまでにそう長い時間は掛からなかった。
“どりゃああああああああああああ”
“うおおおおおおおおおおおおおおお”
“きたあああああああああああああ”
“やああああああああああああああ”
”最強コンボきたぁあああああああああ“
”強すぎw w w w w“
”ファーーーーーーーw w w w w“
”誰も勝てない最強技きたぁあああああ“
“よっしゃああああああああああああ”
“神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!”
¥50,000
えー、強すぎですw
¥30,000
相変わらずえぐいっすw
¥10,000
今日この日のためにお金貯めてきました。
大将が新種の深層モンスター一匹倒すごとに一万円投げます
¥40,000
おい神木。海外配信者がお前の配信ミラーしまくってるけどお前の戦い方が人外すぎてやっぱり本物かどうか疑われてるぞ!
¥50,000
どうせ踏破するだろうから先に投げておきます。二つ目の未攻略ダンジョンソロ踏破おめでとうございます大将!
¥10,000
神木拓也と同じ時代に生まれて来れて本当によかったです。
大将の偉業は大将がもし配信を止めた後も語り継いで生きたいですが、話盛りすぎだと思われないかだけが心配です。
もはや何が起こったのか説明する必要もないだろう。
チャット欄は大盛り上がり、赤スパが飛びまくり、画面が真っ赤に染まる。
おそらくここまででいちばんの見どころに、ぐんぐん伸びて行く同接を見て、俺は密かにガッツポーズを取るのだった。
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taki210です。
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