第63話
かミキサーの体力温存型、神木ドリル(視聴者命名)で下層のモンスターの群れを乗り切った俺は、深層の入り口を目指して下層をどんどん攻略していく。
”今日はいつになく気合い入ってんな“
”視聴者多すぎだろw w w十五万人てw“
”え…なんでこの人、下層のモンスターを片手で瞬殺してるんですか?”
“今倒したオーガって下層の最強格ですよね…?どうしてこんなに簡単に倒せるんですか…?意味がわからないんですけど…”
“他のダンジョン配信者とは格が違う…こんな人が日本の探索者にいたんですね…”
“この人がまだ高校生って流石に冗談ですよね?”
“なんか今日は新参がいっぱいいるなぁ”
“新参どもが神木に驚いてら^^”
“ネットニュースとかトレンドで相当拡散されたからなぁ…新参も多いやろ”
“あーあ、かわいそうに。こいつらも配信が終わる頃にはもう神木しか見れない体にされちまってるんだろうなぁ…”
“一度神木の配信見たら、マジで他のダンジョン配信見れなくなるからな”
“神木見た後だと、他の探索者よっわwってなるからなw本当は神木が埒外なだけなんけど”
“前他のダンジョン配信のコメントで、神木ならここでこうしてた〜とかコメントしてたやついたわw”
“あー、自分を神木拓也だと勘違いしてる奴のコメントなwあれマジで他の配信者のところで最近よく見るようになったわ。正直めっちゃ恥ずかしいからやめてほしい”
“わかる。他の配信にここでのノリを持ち込むべきじゃないよな”
”そういうことやってる奴らは大抵新参“
どうやら今日の配信には新規視聴者……いわゆる新参の方々もたくさん訪れているようだ。
俺が片手で下層のモンスターをスムーズに倒していっていることに驚いているようなコメントがちらほら流れている。
中には俺が高校生であることを疑うようなコメントも。
なんだか懐かしいな。
バズってすぐの頃はこんな感じだった。
最近は俺の視聴者もかなり慣れてきたのか,下層のモンスターを倒すだけじゃ大して驚いてくれなくなったからな。
「新規できてくれている方ありがとうございます。こんな感じで普段は下層とかを主戦場にダンジョン配信しています。今日は初めてソロで深層に潜るつもりです。よかったらチャンネル登録して最後まで見ていってください」
同接はすでに15万人を突破。
まだまだ伸びの勢いは衰えず、どんどん増えていっている。
この調子だと、どうあっても今日の配信の同接は20万人は超えそうだな。
間違いなくこのチャンネル至上最高の同接に到達することはもう確定したようなものだ。
”大将!!!さっきの神木ドリル切り抜いて拡散しておきました!!!“
”神木ドリルに効果音つけてつぶやいたら拡散が止まりません!!!“
”大将またトレンドに載ってます!!!“
おそらくこの同接には、普段から俺の配信に待機してくれている切り抜きの方々が大いに貢献してくれているのだろう。
本当に配信者として切り抜きの存在はありがたい限りだ。
だが、俺の視聴者は思いの外切り抜きたちを歓迎しているわけではなく、最近配信で面白い場面があるとすぐに『切り抜き4』とか『切り抜き見てるー?^^』とここが切り抜かれて切り抜きチャンネルに上げられることを予想したかのようなコメントが多数書かれる。
どうやら彼ら的に、俺の名声を利用して数十万の再生数を勝ち取り、月に何百何千万円も稼ぐ切り抜き師たちへの嫉妬があるようなのだ。
もちろん、俺の切り抜き師たちもたくさんいるため、数十万の再生数を勝ち取れるのは一部の勝ち組だが、しかし、中にはチャンネル登録者が五十万人を超えるような俺専門の切り抜きチャンネルもあり、噂によるとすでに億に届きそうな収益が上がってるとか。
…えーっと、切り抜き収益折半の方が良かったかな?
まさか切り抜きの収益が俺本人の収益を超えることなんてないよね…?
“おい切り抜き師ども神木の配信中に切り抜きあげんじゃねーよ”
“神木の配信の邪魔になるようなことすんじゃねぇ”
“配信中は切り抜きあげないって暗黙の了解があるの、ご存じでない?”
“暗黙の了解も知らない新参の古事記切り抜きどもがよ”
あと最近、なんか視聴者の間で、俺の配信中は切り抜きをあげてはならないという暗黙のルールもできつつある。
理由はよくわからないが、そのようなルールがすでに浸透してしまっており、この掟を破った切り抜きチャンネルは例外なく古事記呼ばわりされて荒らされているらしい。
…まぁこれに関しては完全に身内ネタというか、俺の視聴者の間だけでやっていることなので俺は止めるつもりはなかった。
他の配信者やその視聴者に迷惑がかかっているのならいざ知らず、俺の視聴者同士の喧嘩までに俺は割って入るつもりはない。
俺としては別に配信中に切り抜きがたくさんあがろうが邪魔だとも思わないしな。
「切り抜きさんたちもいつでもありがとうございます。その……なんというか、うまくやってくださいね?いろいろ……それじゃあ、先に進みます。そろそろ下層の最奥が見えてきましたね」
俺は配信後しっかりと俺の視聴者に叩かれることになるであろう暗黙の了解をまだ知らない切り抜き師さんたちに若干同情しつつ、下層探索を進めていく。
結局その後、俺は特に群れやイレギュラー、想定外の事態に遭遇することもなくあっという間に下層の最奥に辿り着いてしまった。
時計に目を落としたところ、ダンジョン探索をしてまだ二時間ほどしか経過していなかった。
「ふぅ…下層攻略終了です…」
俺は下層攻略終了宣言をしてから、時計に目を落とした。
時刻はちょうど正午と言ったところ。
これから夜になるまでたっぷりと深層を攻略する時間が残されている。
“はっやw w w”
“いつもながら早いなw w w”
“とんでもないことしてるけど、神木にとっては当たり前だから驚かんw”
“いつもより若干早い…気合い入ってますね”
“え、嘘ですよね…?もう下層攻略終了ですか…?ソロで?下層を…?”
“信じられない…日本にこんなすごい探索者がいることが…”
“俺、なんで今までこんなすごい人知らなかったんだろう…“
”噂には聞いてたけど……現役高校生最強探索者神木拓也……まさかここまでとは…“
いつも通りだと大して驚いていない俺の普段からの視聴者のコメントがある中で、中には純粋に俺の下層攻略までのタイムを驚いてくれている新規視聴者もいた。
やっぱりこんなふうに驚かれたりすごいって言ってもらえると嬉しいよね。
ダンジョン配信者冥利に尽きるというか。
さて……深層でも暴れて俺の既存の視聴者たちにも今日は驚いてもらうぞ?
「それじゃあ……いよいよですね…」
俺はそう言って前方の暗がりを見つめた。
今、俺が立っている場所が、下層の最奥。
そしてここから先が、深層。
魔境とも呼ばれることのある、本当に強いモンスターしか出現しないダンジョンで最も危険な場所。
今まで一度も踏み入ったことのない場所に、俺は配信で初めて足を踏み入れようとしていた。
”いよいよか…“
“緊張してきたぁあああああああ”
“ここまできて引き返すって選択肢は…ないよな?”
“マジで楽しみ!!!でもちょっと怖いかも……”
“神木マジで死ぬなよ?”
“神木頼んだぞ?”
“安全マージンだけはしっかり取ってくれよ?”
“配信のために無理しなくていいからな?”
“危なくなったらすぐに逃げてくれよ?”
“神木…やっぱりやめたほうが…”
“マジで死なないで大将;;”
深層を前にして、コメント欄にもかつてない緊張感が漂い出した。
同接は現在十七万人を突破して、十八万人に届こうかというところ。
コメント欄には、俺を心配したり、これからの展開に期待したり、あるいは深層にソロで潜る俺の正気を疑う新参のコメントが溢れている。
「行きます…!」
いつまでも入り口で足踏みをしていても仕方がない。
俺は何度か深呼吸を繰り返し、若干高くなっていた鼓動を一旦落ち着けてから、片手剣を右手にもちかえ、いよいよ持って深層へと一歩を踏み出した。
「なんか意外と普通ですね」
深層に足を踏み入れてから5分。
それが俺が最初に抱いた感想だった。
“意外と普通ってなんだよw w w”
“まさかの深層に入って最初の一言がそれかよw w w”
“やっぱ俺たちの大将イかれてるわw w w”
“マジで油断すんなよ?周りちゃんとみろ…?”
“余裕ぶっこいてた獅子王武尊も気づいた時には死んでたからな。マジで気をつけてくれ”
初めて踏み入った深層には、特にそれまでのダンジョンと変わらない光景が広がっていた。
薄暗い通路。
岩でできた壁や天井。
ゴツゴツとして安定しない地面。
どれも上層や中層、下層と変わらない。
「もっとこう……紫色の煙が立ち込めていたり、みたいな禍々しい感じかと思ったんだけど…」
”そんなわけないやろw w w“
“感想が呑気すぎるw w w”
”緊張感ないなぁw w w“
“なんか心配してるこっちがバカみたいになってくるw”
“大将油断しないでくれぇ;;”
“いきなり襲われるかもしれないからマジで気をつけて”
“深層にソロで潜ってるやつの緊張感じゃねぇw”
“なんかフラッと遊びに来たみたいなテンションやなw”
「すみません。気を引き締めますね」
まだここまでモンスターには一回も遭遇していない。
ダンジョン深層は不気味なほどの静けさを保っていた。
“紫色の霧って…そんなの漂ってるわけないやろ。てかお前、下調べしてきてないの?”
“なんかさっきの発言で一気に不安になったんですけど……神木さん。ひょっとしてダンジョン深層の情報調べてきてないんですか?”
“大将。予習はしてきたんでしょうか?”
“流石に神木でも深層の下調べぐらいするだろ……ここは攻略済みダンジョンなんだからそれなりに情報も上がっているだろうし…”
「あ、ちなみに下調べとかはしてません」
“は…?”
“は…?”
“は?”
“はい…?”
“ん?”
“今なんて…?“
”え…?“
”w w w“
「やっぱりこう……何が出てくるんだろ!?みたいなワクワク感って大事だと思うんですよ……あらかじめ情報を知ってるとやっぱり目新しさがなくなっちゃうというか」
“アホやw w w”
“はぁあああああ!?何言ってんのこいつ!?”
“頭おかしいだろ!?”
“自殺行為すぎるw w w”
“深層に一切の情報なく潜ってるのはマジで自殺行為すぎるw w w”
“やっぱこいつ頭のネジ外れてるわw”
“うーん、このw”
“大将!一生ついていきます!!!w”
「あと、深層に関する情報ってかなり集めようとすると金がかかるっていうか……入れる人がごく一部だから、情報も限られてくるんですよね……一応有名探索者クランのホームページサイトとかで情報を販売してたりするんですけど……何十万何百万積まないとまともな情報が手に入らないというか……いや、言い訳みたいになっちゃったんですけど」
”いやそうかもしれんけどさぁ…“
”そうなの?“
”え、深層の情報ってネットでも調べられるくね?“
”ネットに出回っている深層の情報はかなりの部分がガセって言われてるぜ“
”わかる。深層探索者たちは、自分たちのパーティーやクランのアドバンテージを保つために、あんまり情報を公開しないからなぁ…手に入れようとしてもそれなりに金がかかる“
”深層の情報はそんなに簡単に手に入らないぞエアプくんw“
”エアプくんたち信ぴょう性ある深層情報が簡単に無料で調べられると思ってて草なんよ。世の中そんなに甘くないんよw“
”深層について最新情報!とかいう記事とかサイトに釣られてるやつ、全員アフィカスの養分になってること気づいてない情弱ども“
そうなのだ。
深層に関しての信ぴょう性ある情報はなかなか手に入れるのが難しい。
攻略済みダンジョンであっても、全ての階層の情報を完璧に入手しようとすると、そのダンジョンを攻略したことのある深層クランが販売している情報商材を買う以外に方法がなく、それには何千万円というお金がかかってしまう。
ゆえに俺は今回ほぼ初見……つまり大した情報もなくこのダンジョン深層に潜っている。
…別に調べるのが面倒くさかったとかそういうことじゃないので勘違いしないでほしい。
ほら…やっぱり初見のモンスターに出会った時の驚きとか新鮮さとか……大切にしたいじゃん?
ヒィイイイイイイイイイ…
「ん?」
そんなことを考えていた矢先だった。
唐突に甲高い悲鳴のような声がダンジョンの通路に響き渡った。
人のものかと思ったが違うようだ。
俺が音の出所を探して周囲を見渡していると、不意に首筋に悪寒が走った。
「おっと」
俺は危機を察知して、とりあえずしゃがんでみた。
自分の頭上、ちょうど首があった位置を何かが通過していく気配がした。
ドガァアアアアン!!!!
「ふぁっ!?」
と思ったら、俺のすぐ横のダンジョンの壁の岩が突然砕けた。
どこからか攻撃を受けているっぽい。
「え、どこ…?」
俺は辺りを見渡す。
だが、敵のようなものは確認できない。
かすかに気配のようなものは感じるんだけど。
”えっ、なになに!?“
”何が起きた?“
“壁がいきなり壊れたんだけど…!?”
“ものすごい音がした!!!”
“遠距離攻撃!?”
“神木ー?近くにモンスターいるのか…?”
“まずいまずいまずい…始まった…”
”か、神木!?大丈夫か!?“
”いきなり画角が下がって神木の生首が映るとかないよね!?“
”大将;;“
ヒィイイイイイイイイイ…
甲高い悲鳴のような声が、俺の頭上から聞こえてくる。
「何かいるな…」
どうやら俺は、見えない何かの攻撃にさらされているらしい。
「さて…やりますか」
深層に入って初めての戦闘。
俺は気持ちを切り替えて、片手剣を握る右手に力を込めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます