第206話
「え、マジ…?」
なんとなく凱旋みたいな感じでもてはやされるだろうなというのはあらかじめ予想していた。
自惚れるわけではないが、高校生でありながらソロで今まで誰にも攻略できなかった未攻略ダンジョンを攻略したというのは他人の目から見ても偉業のはうだ。
なので学校の人たちはいつものように…いやいつも以上に俺を持ち上げて、ダンジョン踏破を祝福してくれるはずだと思っていた。
だが、流石にここまでされるとは思わなかった。
「横断幕…?まじ…?」
土日が終わり、月曜日。
俺がいざ学校へ登校してみると、校舎に『神木拓也未攻略ダンジョン踏破おめでとう!』と横断幕が下がっていた。
まるでオリンピックかはたまた他の大きな大会で大活躍した有名アスリートの出身校がやるみたいにして、デカデカと俺の名前が入った横断幕が校舎の屋上から垂れ下がっていたのだ。
「すげーなこれ…」
思っても見なかった特別扱いに、俺は思わずその場に立ち尽くして魅入ってしまった。
そこからチラリと校門の方に目を映せば、そこには待ち構えている大勢の生徒たちが見受けられる。
「行くか…」
ちょっと照れ臭かったが、俺は意を決して校門まで歩き生徒たちの前に姿を現す。
「お!」
「きた…!」
「きたぞ…!」
「神木先輩だ…!」
「神木拓也だ!」
「神木先輩!」
「きたぞ、今日の主役だ!」
「きたあああああああああああ」
「おいみんな来たぞ!準備はいいか!?」
「神木が来たぞ!!!」
登校してきた俺の姿を認めた生徒たちが次々に俺の名前を呼ぶ。
「お、おはようございまーす…」
俺が小さく会釈しながら校門をくぐった途端に、待ち構えていた生徒たちが一斉にクラッカーを鳴らした。
パパパパパパパパパーン!!!!
「「「「「神木拓也!!!未攻略ダンジョン攻略おめでとーーーーーー!!!」」」」
「「「「わあああああああああああああああああああああ」」」」
「「「「きゃあああああああああああああああああああああ」」」」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
クラッカーがなり、紙吹雪が舞うとともに、大歓声が起こった。
生徒たちが俺の元に集まってきて、次々に祝福の声をかけてくれる。
「神木おめでとう!」
「神木先輩おめでとうございます!!!」
「やったな神木拓也!!!」
「神木拓也最強!!!」
「神木先輩未攻略ダンジョンソロ踏破おめでとう
ございます!!!」
「神木先輩マジで感動しました!!!」
「本当におめでとうございます!!!」
「神木先輩はこの学校の誇りです!」
「本当におめでとうございます!!!」
「み、みんな…ありがとうな…」
正直ちょっとうるっときてしまった。
また前みたいに祝われるだろうなと思ったが、まさかこんなに真剣に祝福してもらえるなんて思っても見なかった。
セリフもあらかじめタイミングとか練習してくれたんだろう。
横断幕もわざわざ作ってくれてかなり嬉しい。
パチパチパチパチパチパチ!!!
紙吹雪に彩られた道を歩く中、生徒たち全員が拍手を送ってくれた。
おめでとう、おめでとうとあちこちから口々にそんなことを言ってくる。
なんだか某アニメの最終回みたいだと益体もないことを考えながら、俺は生徒たちが作ったロードを歩いた。
「え?あれ…?」
蛇行した生徒たちが作るロードを最後まで歩いた俺は、たどり着いた場所を見て首を傾げる。
てっきり校舎に通じているのかと思ったが、果たしてそこは体育館の前だった。
「さあ、入ってきた前!我が校の誇り、神木拓也!!!」
「校長先生!?」
体育館の入り口に、マイクを持った禿頭の校長先生がいる。
にこやかな笑顔をこちらに向かって浮かべて、体育館内へと手招きをしている。
「今日は私の権限で全ての生徒の授業は休みだ!!今日一日を、我が校の誇りである神木拓也の未攻略ダンジョンソロ踏破という偉業を祝うための日にすることをここに宣言する!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「よっしゃああああああああああああああああああ」」」」
「「「「神木拓也マジでナイスだぁああああああああああ」」」」
「神木!お前は最高だ!!!」
「全生徒の希望だ!!!」
「マジで感謝してるぜ神木!!!」
「お前は漢だ!神木拓也!!!」
「神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!」
校長先生がまさかの授業全休を宣言し、主に男子生徒たちから唸るような歓声が上がる。
「え、本気ですか…?校長…?」
「もちろんだ。ほら、すでに食事も用意されている。中へ入ってくれ」
「うわ……すげぇ…」
体育館の中に足を踏み入れると、そこにはすでにたくさんのテーブルと椅子が並んでおり、美味しそうな食事がテーブルの上に置かれていた。
「こ、こんなことまで…俺のために…?」
横断幕や紙吹雪のロードだけでなく、まさかパーティー会場まで用意されているとは思わずに俺は校長を二度見してしまった。
「これくらい当然だ。君はそれだけのことをしたのだ。高校生がソロで未攻略ダンジョンを攻略するなんて、後にも先にも一度きりだろう。こんなめでたいことを祝わずにどうするというのだ
ね?」
「あ、ありがとうございます」
「さあ、皆!飲んでくれ、食べてくれ!!今日は私の奢りだ!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「きたああああああああああああああああああああ」」」」
太っ腹にもこの食事や飲み物は、全て校長の自腹によって賄われているらしい。
生徒たちが歓声をあげて、体育館の中に入っていき、食事に手をつけ始める。
「さあ、神木先輩も!!!」
「食べましょう!飲みましょう!」
「あなたは今日の主役なんですから!!!さあ、飲んで食べて!!!」
入口の方で戸惑っていた俺も、他の生徒に促されて体育館の中へと入って行ったのだった。
= = = = = = = = = =
俺の未攻略ダンジョンソロ踏破を祝うためのパーティーが始まって二時間ぐらいが経とうとしていた。
体育館内には、美味しい食べ物と飲み物が全校生徒の分だけ用意され、陽気な音楽が流されていた。
合唱部や、バンド活動をしている生徒たちが舞台になって場を盛り上げ、先生方も一緒になって手拍子で応援している。
授業が全休になったことで、生徒たちはすっかり解放された笑顔で、食事を手にし、友人たちと談笑したりしている。
たくさんの生徒が俺の元にお祝いの言葉を言いにきたり、サインを求めたりしてきたのだが、二時間もすると流石に落ち着いてくる。
「やっと食える…」
俺がようやく周りにいた生徒たちがはけて来て安堵の息を漏らしていると、背後から声がかけられた。
「おめでとう、神木拓也。二日前の配信、本当に感動したわ」
「ん?ああ……お前か」
「あら随分な挨拶ね」
そこに立っていたのは西園寺グレース百合亜だった。
一瞬誰かと思ったが、そういえば未攻略ダンジョンソロ踏破配信を行う前に転校生が一人うちにやってきたことを俺は思い出していた。
「すまん…色々あって忘れてた、お前のこと」
「失礼ね…他人にそんなこと言われるの、初めてかもしれないわ……まあでも口にしたのがあなたならまぁ納得できるわ」
「何かようか?」
「別れを言っておこうと思ってね、日本をたつまえに」
「はぁ」
「その前に……とりあえず本当におめでとう。未攻略ダンジョンソロ踏破配信、私も最後まで見させてもらったわ。相変わらず凄まじいわね、あなたの戦い方は」
「見ててくれたのか、ありがとう」
「そりゃあみるでしょう。公言しないだけで、おそらく世界中の深層攻略組があなたの配信を監視しているはずよ」
「え、そうなのか?」
少し驚く俺に西園寺がはぁ、と呆れたようにため息を吐いた。
「あいかわらず自分がどれだけすごいことをしているのかにあまり自覚がないのね……今やあなたは世界中の探索者に注目されるような存在になったのよ。未成年が未攻略ダンジョンをソロで踏破、なんて話、今までに聞いたことがないわ」
「そりゃどうも」
「感動したわ。正直いうと。ものすごい影響を受けた。それだけ、帰国の前に伝えたかったの」
「え、もう帰るのか?」
そういや短期留学だったな。
別段親しい付き合いがあったわけでもなく、正直寂しいという感情は薄かった。
というかむしろこいつの紛らわしい態度のせいで彼氏彼女だと疑われたりと、厄介ごとしか被っていない気がする。
「ええ、帰るわ」
「結局何しにきたんだよ」
「知りたい?私が日本に来た理由」
「いや、別に」
「そ、そこは知りたいって答えなさいよ!嘘でも!!」
西園寺がずっこけるような動作をした後に思いっきり突っ込んでくる。
日本の血が流れているせいなのか、めちゃくちゃ日本人ぽい仕草だった。
「わ、私が日本に来た理由はね……まぁ察してるでしょうけど、あなたのためよ」
「俺のため?」
「ええ……おそらく日本最強であるあなたと戦って……自分の実力を見極めたかった。それが私が日本に来た目的よ!!」
ビシッと俺を指差して、西園寺が日本に短期留学生徒してやってきた目的を明かした。
「俺と、戦う?」
「そうよ。場所はどこでもいいから…とにかくあなたと戦って実力に白黒つけたかった……それが叶わないなら、一緒にダンジョンに潜ったりして間近であなたの強さを見たかった。それが私が日本に来た目的よ」
「なるほど」
「…驚かないのね」
「まぁ考えてみればそれぐらいしかないからな」
やたらと俺に付き纏ってくるのは俺の視聴者だからかと思ったが、どうやら西園寺は俺と戦いたくてあんなに俺に絡んできていたらしい。
「まぁ、そうよね……しつこく絡んだりしてごめんなさいね。妙な噂が立ってあなたも困ったでしょう?」
「いや、まあそれは……」
「わざとなんだけどね。あなたを困らせようと思って」
「おい」
素直に謝ったので許そうかと持った途端にこれだ。
西園寺は悪戯っぽく笑い舌を出す。
「とにかくあなたに私のことを意識して欲しかったの。気を引きたかった。私は配信者としての神木拓也のファンでもあるの。だからあんなふうに気を引けばお近づきになれるし、戦う機会を得られるかもしれないと思ったの」
「あんなことしなくても言ってくれればよかったんじゃないのか?」
「そうね……今から思うとそうかもしれないわね……でも結果的にこれでよかったわ」
「…?」
「あなたと戦わずに済んで本当に良かった」
西園寺が自重気味に笑う。
「あなたの今回の配信を見て確信したわ。あなたは私とは違うステージにいる……私ではあなたに勝てない」
「…」
「おそらくあなたと実際に本気でやりあえば……私は瞬殺されるでしょうね。それぐらいの実力の差が私たちの間にはある。だから……勝負なんて
意味ない。最初っから答えがわかってるから」
「…」
「否定はしないのね」
「まぁ……そうだな」
西園寺が一体どれほどの強さの探索者なのか俺は知らない。
だが、俺もそれなりに場数を踏んできたおかげか、相手の強さが、ある程度推しはかれるようになってきている。
西園寺からは確かに強者のオーラが出ていたが、しかし俺を上回るほどかと言ったらそれほどではない。
戦ったら確実に勝てる確信が、俺にはあった。
「はぁ…全く。あなたにこれまでの常識も何もかも覆されたわ。私は国に帰る。修行のしなおしね。少しでもあなたに近づけるように……もっと強くならなきゃ」
「はぁ」
「ねぇ、神木拓也。もし私が……あなたに勝てはしなくとも、真っ当に戦えるぐらいに強くなれる日が来たとしたら……その時はまた会ってくれる?」
「別に構わないぞ」
断る理由もなかったので俺は頷いた。
「そう、ありがとう」
西園寺がにっこりと笑った。
「それじゃあ…またね」
ひらひらと手を振った西園寺は、最後に一瞬だけ寂しげな表情を見せて去っていった。
体育館がパーティーで盛り上がっている中、西園寺は大勢の出入りする生徒たちに紛れて静かに体育館を後にしていった。
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