第215話


ドドドドドドドド!!!!!


平原を大軍の足音が蹂躙している。


さながら黒い津波の様相を呈している俺の視聴者は、平原に点在するさまざまな国のさまざまなクラン、集団の拠点を飲み込み、破壊し、武器を簒奪しながら、馬に乗って逃げる敵プレイヤーに向かって進んでいく。


「大将、これをどうぞ」


「大将、新しい武器です」


「大将、敵から防具を奪ってきました」


「大将、ロケットです、どうぞ」


「大将、大将に相応しい白馬を強奪してきました、ぜひ乗ってください」


「あ、ありがとうな、お前ら…」


そしてさまざまなクランの拠点を破壊し、物資を強奪してきた俺の視聴者がまず最初にすることといえば、自らその物資を使うのではなく、俺に献上品のようにして捧げにくることだった。


俺は視聴者からの捧げ物によって、あっという間にこのゲームで最も強い防具と最も強い武器で武装することになり、珍しい白馬の馬に乗って平原を移動することができるようになっていた。



“忠誠心えぐいわw w w”

“いいなー…俺も大将からありがとうって言われたい…”

“神木にお礼を言われるっていうそれだけで嬉しいよな…”

”というかマジでこのサーバー完全に制覇できるだろこの勢いw“

“裸の集団が石だけで拠点破壊するの面白すぎるw w w”

“SNSみてきたけど、すでに英語圏のプレイヤーたちの間で話題になってるみたいやな、動画も上がりまくってる”

“このままこのサーバーのすべての拠点とプレイヤーを駆逐してサーバーの王になるべ^^”

“つか逃げてばっかりのあいつは結局何がしたいんだ?”

“ロケラン撃ってきたり手榴弾投げ込んだりしながら馬で逃げてるあいつは結局何なの?”

“嫌がらせか?”

“特定した。そいつ渦巻きナルドっていうそこそこ有名なプレイヤーらしい。一人で十人規模のクランの拠点を潰したりできるほど実力があるらしい”

“もう特定したのか”

“特定はっっっっっや”

“そこそこ強いプレイヤーなのか”

“まぁいくら強くても流石にこの数は無理やろw”

“殺しても殺して神木の視聴者はどんどん増殖するからな。数で押せばいずれは勝てる”



チャット欄でも視聴者たちは大いに盛り上がっていた。


大勢の視聴者が数の暴力で、敵の何日もかけて作り上げられた拠点を簡単に飲み込み蹂躙していく様がみていて楽しいらしい。


同接はすでに60万人を超えている。


ゲーム実況の数字としてはとんでもない規模になってきた。


「みんな!武器を俺にくれるのは嬉しいんだが、もう俺は十分物資持ってるから、これからは奪った物資は各々で使ってさらに拠点攻略したり、あの逃げてるやつを倒すのに使ったりしてくれ」


これ以上ないぐらいの装備で身を固めている俺は、視聴者にそう指示を出した。


ここからは奪った武器や物資はすべて俺がもらうのではなく視聴者の間にも流していく。


そうすることで、どんどん強い軍隊が作られていくはずだ。


「やべーなこれ。マジでどうなっちまうんだ?」


このままこのサーバーにあるあらゆる拠点をレイドして武器を奪い、視聴者に武装させたらとんでもないことが起きる気がする。


多分このゲーム始まって以来のとんでもない強い軍隊みたいなのが出来上がってしまうのではないだろうか。


「まぁいいや。俺は知らね」


別にチートを使っているわけでもないし、俺たちはあくまで元々の設定の範囲内で楽しんでいるだけだ。


誰にも文句を言われる筋合いはないと、俺はどんどん増えて、物資で強化されていく自らの軍隊の背後からゆっくりとついていくのだった。



= = = = = = = = = =


「くそ…まずいな…連中、武装し始めやがった…」


神木拓也の大軍に追いかけられながら馬で逃げて

いた渦巻きナルドは、速度を緩め、背後を振り返り、そして顔を顰める。


当初数だけでゴリ押してくる想定だった神木拓也の軍隊は、渦巻きナルドを追いかける過程で途中にあった拠点などをレイドし、そこから物資などを奪って着々と武装をして行っていた。


大将である神木拓也以外にも武器や防具などが行き渡り始め、着々と軍は強くなっていた。


「裸なら簡単にタレットで潰せるが…防具などで

身を固められると……厄介だぞ」


渦巻きナルドの拠点は、タレットという自動掃射機能のある武器で固められている。


タレットに敵プレイヤーが近づけば、自動でセンサーが反応し自動で無数の弾が発射される仕組みになっている。


渦巻きナルドの作戦は、このタレットを使い、数だけの神木拓也の軍隊を蹂躙することだった。


しかし今や、神木拓也の軍隊は数だけではなくなりつつあった。


途中にある拠点をレイドし、武器や防具を装備し始めたことで、質も向上し始めていた。


おまけに…


「おいおいおい…!?一体どこまで増えやがるんだ!?」


マップの至る所から小集団が集まってきて、黒い津波のような本体に合流しつつあった。


神木拓也の軍隊は、減るどころかむしろ時間と共にどんどん増殖し、数を増やして行っていた。


「とっくにサーバーの限界人数超えてるだろ!?どうなってやがる!?」


みたところ神木拓也とその視聴者は、明らかにこのゲームサーバーの許容人数を超えている。


にも関わらず、神木拓也の視聴者はどんどん増えて、しかもそれによってゲームが重くなるといったこともない。


「運営が何かしやがったのか…?くそ……これ以上数が増える前にさっさと戦わないと…」


ともかく渦巻きナルドは早期決戦をするしかないと思った。


時間が経てば経つほどに、向こうは数を増やし、あらゆる拠点をレイドして物資を集め、どんどん強くなる。


放っておけば、神木拓也の軍隊が誰も倒せない程

に致命的に強くなることは明白だった。


そうなる前に、渦巻きナルドは早く神木拓也の軍隊と戦わなくてはと思っていた。


「よそ見してねーでさっさときやがれよ!!!このゴキブリ野郎ども!!!」


バシュゥウウウウウウウウ!!!!



再びロケットを放つ渦巻きナルド。


神木拓也の視聴者たちの何人かが爆発によって吹っ飛んで即死したが、防具で身を固めていたものは瀕死になりはしたものの死亡までは至らなかったようだ。


神木拓也の軍隊は確実に強度を増しつつあった。


「クソッタレがあああああ!!!」


渦巻きナルドは絶叫し、多少危険を冒してでも神木拓也の軍隊に近づき、手榴弾を投げ、煽りながら必死に自らの拠点まで誘導するのだった。



= = = = = = = = = =



「あいつめっちゃしつこいな…」


ドガアアアアアアアアン!!!


また一発、視聴者の軍隊のど真ん中にロケットが命中した。


爆発で裸だったプレイヤーの何名かが即死し、防具で身を固めていたプレイヤーも回復のために足止めを余儀なくされる。


俺はロケット弾を発射し、煽るように軍隊の前で蛇行しながら走っている馬に乗った敵プレイヤーを睨む。


この軍隊の侵攻の発端となった敵プレイヤーは、いまだに俺たちの軍隊を煽りながら平原を馬で走っている。



¥5,000

大将。あいつどうやら渦巻きナルドって言って、このゲームでそこそこ強くて有名なプレイヤーみたいっす



¥10,000

大将。現在サーバーに参加させてもらっているものなんですが、多分あいつ、自分の拠点に俺たちを誘導しようとしているみたいっすね



¥10,000

大将、渦巻きナルドのSNS特定したっす、そっちにも突撃しますか?



「あ、いろいろ情報ありがとうございます…えーっと渦巻きナルド…そこそこ有名なプレイヤー…そうなんですね…ああ、なるほど、自分の拠点に誘導しようとしているのか…わかりました……え、もう特定したの?君たち早くない?SNSに突撃はやめてください。少なくとも勝つまでは」



どうやらゲーム内だけでなく、裏で特定班が動いていたらしく、すでにこの馬に乗って煽ってきているプレイヤーのアカウントや名前が視聴者によって特定されていた。


それによるとこいつの名前は渦巻きナルドと言って、アメリカ人のプレイヤーらしい。


ラストのコミュニティではそこそこ有名で、強いらしい。


どうやらSNSアカウントやつべでもチャンネルを持っているらしく、それらがすべて視聴者によって特定ずみだった。


またこのゲームをかなりプレイしてそうな玄人っぽい視聴者から、これはおそらく自分の拠点に俺たちを誘導しようとしている動きだという情報も入った。



“なるほど…そういうことか”

“拠点で戦おうってか”

“まぁ平原で一人で戦っても勝ち目ないからな”

“面白いな、受けてたとうぜ!!!”

”殺すべ^^“

”大将。こいつさっきから煽ってきてうざいんで拠点潰しに行きましょう!!!“

”大将、こいつに日本人の怖さを思い知らせてやりましょう^^“

”アメ〇わからすべ^^“

”〇メ公潰すべ^^“

”こいつの拠点レイドして、こいつが作った拠点の中でこいつが作った武器でこいつ殺すべ^^“

”拠点はガチガチに柵とかタレットとかで固められてるんだろうけど、この数いれば関係ないやろ“

”うぜーしわからすべ^^“



チャット欄を見ると、視聴者も相当この渦巻きナルドというプレイヤーに対してフラストレーションが溜まっているようだ。


そりゃそうだ。


こっちが届かない遠方から馬に乗りながらロケット弾や手榴弾を投げ込んでくるやつがウザくないはずがない。


チャット欄は、拠点を特定して早く潰せというコメントで溢れていた。


「まぁ、この人めっちゃ煽ってくるし、視聴者何人も殺されてるし、やる気満々だし、いいですよね……じゃあ、ありがたく拠点まで連れて行ってもらいましょうか」



”よっしゃあああああああああああああ“

”きたあああああああああああああああ“

”どりゃあああああああああああああ“

”うおおおおおおおおおおおおおおお“

”潰せぇえええええええええええええええ“

”殺せぇえええええええええええええええ“

”いくぞぉおおおおおおおおおおおおおお“

”突撃ぃいいいいいいいいいいいいいいい“

”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“


ドドドドドドドド!!!!!!


俺の号令により、周りの拠点を潰しながら渦巻きナルドを追いかけていた軍隊が、一気に渦巻きナルドに向かって侵攻を開始した。

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