第214話


「日本人どもを蹂躙してやる……この渦巻きナルドがこれぐらいで引き下がると思うなよ…!!」


渦巻きナルドは重装備で身を固めながら馬に乗り,平原を走っていた。


目指すは神木拓也とその視聴者がいる浜辺である。


一度身一つで勝負を挑み、何も武器を持たない裸同然の大量の神木拓也の視聴者に数で押されて蹂躙されてから、渦巻きナルドは方針を変更した。


彼は神木拓也とその視聴者たちを拠点まで誘導し、そこで戦うつもりでいた。


拠点にはあらゆる武器があり、また周りを柵で囲んでいるため、容易に親友ができない。


また敵が来た時に自動で銃弾を発射するタレットというアイテムも存在する。


裸同然の神木拓也の視聴者たちは、おそらくタレットになすすべなくやられ、拠点に近づくことす

らできないだろう。


「思い知らせてやる…この俺の、渦巻きナルドの恐ろしさを…」


渦巻きナルドはゲーマーのプライドをかけて神木拓也軍団と一戦交えるつもりだった。


「呑気に拠点作りか……そんな暇誰が与えるかよ…俺が戻ってきたぞ!!!」


元の浜辺に戻ってきてみると、神木拓也とその視聴者は元の拠点作りに戻っていた。


双眼鏡で確認したところ、神木拓也は自分の死体から奪った装備を持っているようだった。


「まずは一発打ち込んでおくか…連中、激怒して俺を追いかけてくるぞ。くひひ…」


渦巻きナルドは性格の悪そうな笑みを浮かべると、ロケットランチャーを構えた。


そして拠点作りに邁進している神木拓也の視聴者たちに向けて容赦なく発射する。


ドシュゥウウウウウウウ!!!!


ロケット弾が発射され、煙を上げて神木拓也の視聴者の元へ飛来する。


ドガァアアアアアアアアアアン!!!!


「よし!!!!」


狙い違わず、ロケット弾は不意をつく形で神木拓也の視聴者の大軍のど真ん中に命中した。


一気に十人ほどのプレイヤーが消し飛び、大軍は蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになる。


「おい!!!日本人ども!!!俺はこっちだ!!!またきてやったぞ!!!!」


渦巻きナルドは突然のロケット弾による攻撃に混乱している神木拓也の軍団に向かって、マシンガンによる銃撃を行った。


銃声で、神木拓也の軍団たちが渦巻きナルドの存在に気づく。


「さあ、来い!!!かかってこい!!」


渦巻きナルドはわざと見晴らしのいい高台に立って、煽るように銃を撃つ。


ドドドドドドドドドドドド!!!!!


「へへへ…きやがったぜ…」


標的を見つけた神木拓也の視聴者が、すぐに渦巻きナルドの方へ殺到する。


足音が周囲を蹂躙し、地面を埋め尽くす黒い波が再び渦巻きナルドに向かって進攻を開始した。


「今度は前回のようにはいかないぜ…!さあ、ついてこいよ日本人ども!!!」


渦巻きナルドは馬に乗り、迫り来る神木拓也の軍団から逃げ始めた。


ドドドドドドド!!!!!!


黒い波は周囲を蹂躙しながら、砂浜を出て草原を走る渦巻きナルドをどこまでも追ってくる。


「こいよ!!!さあこい!!!俺の拠点までついてきやがれ!!!」


渦巻きナルドは、神木拓也の視聴者たちが諦めてしまわないように定期的にロケットや手榴弾などの爆発物を軍団の中に投げ込み、一方的に虐殺す

る。


そしてますます神木拓也の視聴者たちを煽り、怒らせながら、自らの拠点まで誘導する。


ドドドドドドドド!!!!


「はははははははは!!!もうすぐだ!!!もうすぐだぜ日本人ども!!!ははははは」


馬に乗り、渦巻きナルドは笑い声を上げる。


神木拓也の数千人を超える軍団は、途中にあるさまざまなプレイヤーの拠点を飲み込み、蹂躙しながら、全てを飲み込む津波のように渦巻きナルドの拠点へと向かって侵攻していくのだった。



= = = = = = = = = =



〜同サーバー内のとある五人の中国人クランの会話〜



ドドドドドドド!!!!!



「お、おい…なんか音が聞こえないか?」


「聞こえる…何だこれ」


「わからん。誰かがヘリでも飛ばしてるんじゃないか?」


「いや…これは足音じゃないか…?」


「バカな…足音だとしたらいくら何でも数が多すぎる…」


「誰か外に出てみてこいよ…」


「わかった。俺が言ってくる」



ガチャ……



「…!?!?」


「どうした?何かあったか?」


「音の正体は何なんだ?」


「た、大変だ!!!黒い津波が!!!津波が来る!!!」


「はぁ…?」


「何言ってんだ?」


「徹夜で頭がおかしくなったか?」


「違う!!津波みたいな連中が…!こっちに向かって攻めてくるぞ!!!」


「意味がわからん」


「何を言ってるんだよ…」



ガチャ…ガチャ…



「うげ!?」


「冗談だろ!?」


「マジかよ!?」


「何だあいつら!!!!」


「やばいやばいやばい…このままだとこの拠点は飲み込まれるぞ!?」


「だ、誰なんだ!?」


「プレイヤー名が漢字だぞ!?中国人じゃないか!?」


「いや違う!!!あれは日本人だ!!!」


「くそ!!!日本人が大軍で攻めてきやがった!!!」


「どうなってやがる!?」


「うわあああああああ、飲み込まれるぞ!!!」


「とりあえず拠点の中に入れ!!!」



ピー…ガシャン……



「ふぅ…」


「とりあえずこれで…」


「あいつらが通り過ぎるまで拠点に篭ろう…」


「あいつら裸だったしな…流石に中まで入ってこれないだろう…」


「あんな大勢のプレイヤーこのゲームで見たことがない…どうなってるんだ…?」


「わからん…増殖チートでも使ったのか…?」



ドドドドドドド!!!!



ガンガンガンガン!!!

ゴンゴンゴンゴン!!!!!


「「「「「…っ!?」」」」」



「ま、まずいぞ!?」


「あいつら石で壁を叩いてやがる!?」


「くそ!!!壁を殴ってる音が聞こえるぞ!?」


「この拠点を攻略しようとしているのか!?」


「む、無駄な努力だ!!石でこの拠点を落とせるはずがないだろ…ダメージがあまりにも少なすぎる…」


「いや、そうとも限らないぞ!?確かに少人数なら、石だけ使っても絶対に拠点攻略なんて不可能だが…」


「ああ…この人数がもし石で拠点のあちこちを殴ったら…」


「小さいダメージでも大人数でやれば……まずいぞ、突破される…」



ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!



ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!




「あ、あいつら!!!天井にまで登って石で叩いてるぞ!!!」


「まずいまずいまずいまずい!?このままじゃ!?」


「拠点の許容ダメージ数がどんどん減っていくぞ!?このままじゃ!?」


「冗談だろ!?くそ!!!耐えてくれ!!」


「そ、外に出て迎え撃つか!?」


「ばか!!あの数だぞ!?すぐに弾切れを起こすに決まってる!!」


「無駄だっ!!!耐えるしかない!!!諦めてくれるのを待つしか…」



ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!



ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!



「ひぃ!?」


「全然諦めないぞあいつら!?」


「どんだな数いるんだ!?」


「もう拠点の許容ダメージがほとんどないぞ!?このままじゃ壊れる!!!」


「くそっ!!全員武器を持て!!もうすぐ壊れるぞ!!!」



ドガシャアアアアアアアアアン!!!!



「「「「「うわああああああ!?」」」」」



拠点が破壊され、黒い津波が流れ込んでくる。


中国人たちは悲鳴をあげ、銃を乱射したが多勢に無勢。


十分後、そこには無惨な死体が五つ、転がっており、拠点から武器や防具などあらゆる物資が簒奪された。



「「「……」」」



全てを奪い終えた神木の視聴者は、無言で頷き合い、次の敵拠点目指して進軍を開始した。



= = = = = = = = = =


「おー、おー…こりゃすごいな…」


俺は自らの視聴者が大軍で草原を進行していく様子を後ろから眺めて思わずそう漏らした。


先ほど俺を狙って攻撃を仕掛け、死んだ敵プレイヤーが、今度は重装備を引っ提げて帰ってきた。


そして俺の視聴者たちに向けてロケット弾を発射

しやがった。


それに怒り狂った視聴者たちが、全員で敵プレイヤーに対して突撃を敢行。


先ほどの二の舞を避けたかったのか、敵プレイヤーは馬に乗って逃げ始めた。


「もう何でもいいや!!そのまま突っ込め!!!」


追いかける視聴者を止めても良かったのだが、俺はこのまま放っておいた方がいいと思いそのまま視聴者の大軍による侵攻に背後からついていくことにした。


バァアアアアン!!!


ドガァアアアアアアアン!!!


ロケット弾を打ち込んできた敵プレイヤーは、馬に乗って逃げながら定期的に挑発するようにロケット弾や手榴弾を投げ込んでいく。


視聴者たちは、草原を埋め尽くすほどの大軍で行手を阻んでいる敵の拠点を次々に攻略しながら、馬に乗った敵プレイヤーを目指して進んでいく。



「大将、これどうぞ」



「神木さん、これ、使ってください」


「え、こんなに!?どうしたのこれ…」


「途中にある拠点を壊して奪いました」


「中国人から簒奪してきました」


大軍に背後からついて行っていると定期的に視聴者が俺の元にやってきてたくさんの武器や防具などの貢物を渡しにくる。


どうやら道中にあった敵拠点をついでに攻略し、そこにいるプレイヤーを数で押して殺して、武器や物資を奪ってきたらしい。



「君たち武器持ってないよね…?一体どうやって…?」



「数で押しました」


「全員で石を使って拠点を壊しました」


「あっ……そうなんだ…」



これぞ数の暴力。


何だか俺はチートでも使っているような気分で視聴者たちから武器を受け取るのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る