第80話
「あ、神木拓也だ!!!」
「神木拓也がいるぞ!!!!」
「神木拓也が来たぞ!!!!」
「きゃああああああああ神木先輩ぃいい!」
「神木先輩こっち向いてぇえええええ!!」
「はぁ…」
ダンジョン深層ソロ攻略配信の二日後。
休日明けに俺が学校へ来てみると、そこにはたくさんの俺の登校を待ち侘びていた生徒たちが詰めかけていて、耳を覆いたくなるような歓声をあげてきた。
「深層攻略おめでとう!!!」
「神木先輩握手してください!!」
「神木先輩お願いこっち向いてぇええ!!」
「神木拓也最強!神木拓也最強!」
「配信見ましたよ!!!本当におめでとうご
ざいます!」
「神木先輩はこの学校の誇りです!!!」
「おめでとうございます!!!一回でいいので握手してください!!!」
「神木先輩っ!!!きゃあああああ!!」
生徒たちが次々に俺に群がってきてもみくちゃにされる。
配信の成功を祝ってくれるのは素直に嬉しいが、ここ二日間ずっとこんな感じなので俺はうんざりしていた。
昨日なんて住所バレしているせいで、実家の周りにマスコミや野次馬たちがたくさん詰めかけてきてどうしようもなかったので、家族でホテルに泊まって家を空けてなくちゃいけなかったからな。
「あ、あの…そろそろ通してくれないと…」
「「「きゃぁああああ神木先輩!!」」
「「「神木拓也最強!神木拓也最強!」」」
俺はなんとか生徒たちの囲いから抜け出そうとするのだが、俺の元にたくさんの生徒が群がっているのを見てさらに校舎から新たに生徒たちがやってきたりして、俺は結局その後十分以上その場を抜け出すことが出来なかった。
「はぁ、はぁ…くそ…あいつらモンスターよりも強敵だぞ…」
結局群がる生徒たちを振り切って教室に辿り着く頃には、俺は息も絶え絶えになっていた。
モンスターの群れに囲まれるよりもはるかに体力を消耗する。
俺は荒い息を吐き出しながら、教室の中へと入った。
「お、神木だ!」
「神木がきたぞ!!!」
「神木くんおめでとう!!!」
「神木ぃ!!!お前マジですげぇな!!!」
クラスへとやってきた俺の姿を認めると、クラスメイトたちがそんなふうに深層ソロ攻略のことを祝ってくれた。
流石にクラスメイトだけあって校門のところで待機していた連中みたいに、握手を求めたりサインを求めたり、群がったりはしてこない。
口々に俺に配信の成功を祝う言葉を言ってくれたり、拍手してくれたりする。
「ははは…みんなありがとな…」
俺はなんだか照れ臭くなって頭を掻きつつ自分の席に座った。
「サイレントソード!!!ずばっ!!!」
「おいなにすんだてめぇ」
席に座った途端に、前の席の風間祐介が突然振り返り、俺の首筋に横なぎのチョップをしてくる。
俺はジト目をこの悪友に向けた。
「なにってサイレントソードだが?」
「なんだよサイレントソードって」
「おりょ?お前知らねーの?」
「なにがだよ?」
「サイレントソードはお前の新技につけられた名前だよ。海外発祥らしい」
「はぁ…?新技?」
「あの深層第三層でドラゴン三匹を討伐したやつだ。音がなかったからサイレントソードって呼ばれてんだぜ」
「も、もう名前がついたのか…」
「サイレントソード。かっこいいじゃないか喜べよ。少なくともかミキサーよりはマシなセンスだ」
「…まぁ確かにな」
サイレントソード、か。
確かにちょっとかっこいい気がする。
わずかに残った厨二心をくすぐられるというか。
今後はかミキサーみたいに、この名前で定着していくのだろうか。
「そのほかには神斬なんて呼んでる連中もいるけどな。どっちが定着するかはまだわからん……と、まあそういう前置きはさておいてだな……えー、うん。神木。マジでおめでとうな」
「お、おう…ありがとう」
素直に祝福してくれる祐介。
俺は若干戸惑いつつもお礼を言う。
「まさか深層ソロ攻略を本当にやり遂げるとは思わなかったぜ?いや、マジでな。正直今回はいくらお前でもちょっとあぶねーんじゃねーかって思ってたわ」
「まぁ、俺も不安はあった。けどやってみたら案外簡単だったかもな」
「いやお前、親友ながらマジでヤベェよ。なんか若干怖くなってきたしな。人も死ぬほどみてたし……配信終わり頃の自分の同接、覚えてるか?」
「同接150万人だろ?その瞬間は自分ではみられなかったけど、あとでアナリティクス画面で確認したよ」
二日前の俺の深層ソロ攻略配信。
当初の予想を大幅にこえて、同接は最終的に150万人を記録した。
150万人というと、何度もいうがちょっとした都市人口並みの人数である。
俺はいまだにそんな数の人間が自分の配信を見てくれたことの実感が湧いてなかった。
「150万人ってのはとんでもない数字だぜ、神木。あくまで同接の数字がそれなら、累計の視聴者はもっと多いだろうな。ざっと500万人いや、それ以上の人数がお前の配信を目にした可能性があるぜ」
「累計の視聴者ってやつか……確かに、そのぐらいはいくかもなぁ……自分のことながらマジで実感わかねぇけど」
同時接続とはあくまである瞬間に同時に見ている視聴者の数であって、配信を訪れた視聴者の総数ではない。
配信を訪れた総人数のことは累計視聴者数なんて呼ばれたりして、これは必ず同時接続数よりも多くなる。
大抵が5倍から6倍になるのが相場であり、つまり俺のあの日の配信は、少なくとも500万人以上の視聴者の目についた可能性があるということだ。
「大成功、って言葉じゃ治らないぐらいの成功だよな。登録者、何人増えた?」
「これみるか?」
俺は祐介に自分のチャンネルのアナリティクス画面を見せる。
そこには、同接が右肩上がりに上がっていくチャートや、その配信からの登録者数、スパチャ金額、配信時間、視聴者の性別や年齢層などのデータがまとめられていた。
それを見た祐介が、大きく目を見開く。
「す、すげぇ……ひゃ、100万人…増えたのか…?」
「ああ…一日でな」
そう。
二日前の深層ソロ攻略配信そのただ一回で、俺の登録者は約100万人一気に増えた。
現在の登録者数は450万人越え。
500万人の大台がもう目の前まで迫ってきているのである。
「マジでやべぇな……つかこの感じだと現在進行形で伸びてる感じか?」
「まぁな。見とけよ。更新すると…」
俺が一度自分のチャンネルのアナリティクス画面を閉じて、それから再度開く。
すると表示されていた登録者の数が一気に一千人上乗せされた。
たった今、この短い時間の間に、千人の登録者が新たに増えたのだ。
二日経っても、この伸び具合ということで、この間の深層ソロ攻略配信のネットに及ぼした影響力がよくうかがえる。
「わお…更新するだけで千人ずつ増えていくのか……とんでもねぇな」
「botかと疑いたくなってくるけどな」
「まぁでも納得の数字だな。この休日はマジでネットの世界はお前一色だったからな。どこもかしこもお前に関するスレだのつぶやきだの記事だので溢れかえってたぜ。そんぐらい多くの目に留まった配信だったんだろ」
「めちゃくちゃありがたいことではあるんだが……実を言うとあまり実感がない」
「だろうな。ちょっと前まで同接一にすら届かなかった弱小だったんだからな、お前。そのサラリーマンの生涯収入の半分みたいなスパチャ金額も見なかったことにするよ」
「っとと」
俺は慌ててアナリティクス画面のスパチャ金額を手で隠す。
確かこれ人には見せちゃいけないんだっけ。
まぁ配信遡って計算すればわかることなんだがな。
「ったく、羨ましいぜ勝ち組が。半生は働かなくてもいいような大金を一回の配信で稼ぎやがって。このこの」
祐介が嫉妬したように俺をこづいてくるが、俺は知っている。
祐介は祐介で、ネットを使って様々な収益を得ていることを。
「いや、お前もネットで普通に稼ぎまくってるだろ。ブログとか、切り抜き動画とか」
「およ?バレてた?」
「俺の名前使ってアクセス荒稼ぎしてるの、ちゃんと監視してるからな。このアフィカス野郎」
「ははは。言うようになったではないか神木拓也くん。だが、広告費を稼いでいると言う点では、配信者もアフィカスの一種だろう?」
「ぐ……そう言われると確かに…」
俺のことが羨ましくて仕方がないみたいな喋り方だが、こいつはこいつでうまいことネットで稼いでいるのを俺は知っている。
プログラミング言語だとか、そういう方面にも強いこいつは、掲示板のまとめサイトや、切り抜きチャンネルなどをいくつも運営しており、そこからかなりの広告収入を得ているのだ。
また、今ネットで起こっている時事ネタを発信するSNSのアカウントも運用しており、フォロワーは五十万人を超えている。
あれだけのフォロワー、そしてアクセスがあれば、一個案件を受けるだけで100万円以上の金が稼げてしまうことを、俺は他ならぬこいつ自身に聞いて知っていた。
おそらくこいつのネットからの収入を合計すると、軽く数千万円単位の金になっていると思われる。
「お前まじであれだけの情報をどうやって集めてんだ…?まとめサイトの更新もめちゃくちゃ早いし…切り抜きチャンネルだって一日に10本以上動画上がってるだろ。お前ちゃんと寝てるのか?」
とにかく更新が早いのがこいつのアカウントの特徴。
情報通なのは前からなのだが、それにしたって一体どうやってあれだけの作業量をたった一人でこなしているのだろうか。
俺はいつもそこが不思議だった。
ひょっとしてこいつ、超ショートスリーパーなのか?
「流石にあの作業を一人でやるのは無理だ。アカウントがある程度大きくなったら金払って人に任せてんだよ」
「そうなのか」
「ああ。ネット情報の発信のあのアカウントも、別に自分で情報を全て集めているわけじゃなくて、ある程度アカウントが大きくなったらDMで勝手にホットな情報とか取り上げてほしい情報がフォロワーから送られてくんだよ。そしてその選別すら、俺は人に任せてるね」
「…マジかよ」
と言うことはこいつは自分の作業量は最小限にして、多くの金銭的利益を得ていると言うことか。
「…やっぱお前油断ならねぇわ」
「へへへ。褒め言葉として受け取っておくぜ」
とても同じ高校生とは思えないような狡猾なやり方をしている悪友に、俺は改めてそんな感想を抱いたのだった。
「まぁ俺だってお前みたいに探索者としての圧倒的な強さがあれば、配信者として成功してみんなにキャーキャー言われながらスパチャもらうっつー正攻法ができたんだけどな。あいにく俺にはお前や桐谷みたいな探索者の才能はなかった。だから、ここを使うわけよ」
祐介が自分の頭をさしてニヤリと笑った。
「はぁ…ったく、俺の知らないところでそんな上手いことやってたのか。素直に感心するよ」
「ありがとよ。ま、俺の話はいいとしてだ。
これからお前、どうすんだ?」
「これからって?」
「深層配信、大成功だったわけだろ?このまま続けるのか?」
「ああ、そのことか…」
どうやら知らずのうちに高校生の日本記録も更新していたらしい初めての深層ソロ攻略配信。
最終的な同接は150万人を超え、大盛況という言葉では収まらないほどのバズり方をした。
いろんな要因はあれど、やはり視聴者は、俺がより危険な階層を踏破する姿を見たいと望んでいることがわかった。
おそらく視聴者の本音は、次の配信でも深層ソロ攻略が見たい、が正解だろう。
俺だってそんな視聴者の望みに応えるのは、
配信者としてやぶさかじゃない。
だが、一つ問題もある。
「俺だって毎日でも深層に潜りたいが……平日は時間がな」
「あーね」
深層に潜るのにはとにかく時間がかかる。
なぜならその間にある上層、中層、そして下層を踏破しなくてはいけないからだ。
たっぷり一日を探索に使える休日ならまだしも、学校に通っている俺が平日にダンジョン深層まで潜って帰ってくるのはほぼ不可能である。
だからこれから深層探索配信を続けるにしても、毎日とはいかず、あくまで休日に限られるだろう。
「もうお前レベルだと学校に行く意味もないと思うけどな……卒業して普通に就職するつもりはないんだろ?」
「いや…まぁそうだが…けど、高校は流石に出ておきたいだろ」
大学に行くかどうかはまだわからない。
だが、流石にどんなに配信で人気が出て稼げようが、高校は出ておきたい。
入れてくれた両親のためにも、しっかり卒業はしておきたいのだ。
別に配信活動と学校生活の両立は今の所問題なくできているわけだしな。
「深層配信は続けるつもりだ。ただし、土日に限るけどな。平日はこれまで通り下層までの攻略配信を続けるよ」
「真面目だなぁ…俺だったらもう学校はスパッとやめて配信活動に舵を切るかもなぁ…」
「いや、そう言うお前も結構な大金稼いでるだろ?就職するつもりあんのか?」
「いんにゃ」
祐介は首を振った。
「流石に今の収入の十分の一以下の年収をもらうために、社畜になる気は起こらんなぁ…」
「だろうな」
「まぁ俺の場合は進学かなぁ。大卒の学歴が欲しいし、適当にどっかの大学に入ってネットで稼ぎながら適当にキャパスライフを謳歌するかな」
「そう言うのもいいかもな」
祐介は実はそれなりに勉強も出来るからな。
多分その辺の国立大学ぐらいだったら簡単に受かるだけの学力はある。
本当に羨ましい限りだ。
「ま、そんだけ稼いだんだったら自分一人では管理も大変だろ。困ったら俺に言えよ?税理士紹介してやるぜ?」
「…頼むかもしれん」
今回の配信で得たお金の管理もまた問題だ。
当然これだけの大金を高校生の俺一人で扱うことなど不可能で、税理士や、大人の力を借りることになるだろう。
一応最初は両親を頼ってみて、ダメなら祐介に頼むとしよう。
俺はそんなことを考えながら、この際だからともう一つの問題に関しても、この賢い悪友の意見を仰ぐことにする。
「それと祐介、もう一個聞いて欲しいことがあるんだが…」
「おう、なんだよ?」
顎をしゃくって先を促す祐介に、俺は昨日からずっと俺の頭を悩ませているある問題のことを口にした。
「実はだな……テレビ出演のオファーが来てるんだが、どうすればいいと思う?」
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