第102話


首無し騎士のモンスター、デュラハンを倒した後、特に強いモンスターとのエンカウントもなく俺は深層第三層へと足を踏み入れていた。


配信の同接は100万人をすでに突破しており、現在108万人。


順調すぎるペースで視聴者は増えて行っている。


(やっぱり深層配信は桁が一つ違うな)


そんなことを考えながら、俺は深層第三層の攻略を開始する。



「今から深層第三層に潜っていこうと思います」



“いけ”

“きたああああああああああ”

“うおおおおおおおおおおおおお”

“あっという間に第三層”

“気づけばここまできたか”

”前回は第四層がまるまるボス部屋だったな“

”深層領域は階層が少ない傾向にあるから、そろそろボス部屋くるかもな”

“やべえ…神木の深層配信マジで楽しすぎて時間が溶ける…”

“体感30分ぐらいなのにもう配信始まって五時間以上経ってた…”

“第三層攻略頑張って大将!”

“次はどんなモンスターが出てくるんやろ?”



新種のモンスターとの邂逅に心躍らせる視聴者のコメントが目立つ。


やはり今までに遭遇したことのない新種の深層モンスターとのエンカウントに視聴者は面白さを見出しているらしく、新種が出るとわかりやすく同接が増える。


ここまでのところ、一階層重ねるごとに一種類は新たな深層モンスターが出てきているので、今回の階層にもそれを期待したい。


すでに戦ったことがあり弱点を知っている深層モンスターと戦ってばかりいてもつまらないからな。


見所を作るためにもぜひ新たな深層モンスターにご登場いただきたい。


そんなことを考えながら俺は深層第三層を進んでく。



ヒィイイイイイイイイ

キシェェエエエエエエ

ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ…



「随分出てくるな」


モンスターとのエンカウントが少なかった第二層とは打って変わって、第三層では、立て続けにモンスターが出てきた。


ここはそういう階層なのかもしれない。


レイス。


リザードマン。


キングスライム。


極め付けに、女の巨人のモンスター。


とにかくたくさんの深層モンスターが後から後からやってくる。



「神木サー・改」



一匹一匹相手をしていても面倒なので、俺は神木サー・改を発動し、行手を阻むモンスターたちを斬撃で切り裂きながら進んでいく。


すでに倒したことのあるモンスターの討伐に時間をかけていても興醒めだろう。


まだ戦ったことのない新しいモンスターとの邂逅まで、巻きでいかせてもらうとしよう。


ドガガガガガガガ!!!!!




『『『ギャァアアアアアアアアア!!』』』



“神木サーきたぁあああああああ”

“うぉおおおおおおおおおおお”

“気持ちぃいいいいいいいいいいい”

“爽快感たまんねぇえええええええ”

”切り刻めっ!!!“

”ぐっっっっっっっっろw“

”深層のモンスター共が微塵切りになるのさいこーーーーーー“

”神木拓也最強!神木拓也最強!神木拓也最強!“



ダンジョンに無数の深層モンスターたちの悲鳴が響き渡る。


俺は神木サー・改を発動しながらそのまま進んでいき、段々とモンスターの波が途切れてきたところで一旦動きを止める。



ヒィイイイイイイイ

ヒィイイイイ

ヒィイイイイイイイイイイイ



「残ったのはレイスだけか」



神木サー・改をやめて周りを見てみると、残ったモンスターはレイスのみとなっていた。


俺が神木サー・改を発動している間、霊体となってついてきていたらしい。


「まとめてこいよ」



『『『ヒィイイイイイイ!!!』』』


動きを止めた俺に、頭上を飛び回っていたレイスたちが一気に実体化して襲いかかってくる。


俺がそれらのレイスを全て同時に斬り伏せようとしていたその時だった。



「…!?」



通路の奥から爆発的な殺気を感じた。


俺は咄嗟に剣を盾にして受け身の体制を取る。



ドガァアアアアアアアアアン!!!!



”ファッ!?“

”ひえ!?“

”およ!?“

”いきなり何!?“

”なんかきたぁああああああ!?“

”うるせぇ!?“

”いきなり爆音やめて“

”音割れてる“

”鼓膜ないなった;;“



唐突に響く爆音に視聴者が驚いている。


突如として前方から襲ってきた衝撃波が、ダンジョンの壁をガリガリと削る。


実体化し、俺を襲撃しようとしていたレイスが全員、衝撃波をまともに暗い吹き飛ばされていく。



「何かきたみたいです」


跳躍しながら、前方から何かが近づいてくる。


俺は剣を構えて戦闘体制に入る。



『クケケケケ』



「これまた変な奴が……」


現れたモンスターは、女の巨人のモンスターやデュラハンに負けず劣らず、奇怪な見た目をしていた。


能面の顔に貼られたお札。


大陸仕様の服装。


前に両手を突き出しながら、ぴょんぴょんとウサギのように跳ねて距離を詰めてくる。



”なんだあいつ!?“

”ファッ!?“

”またやばそうなのきたぁああああああああああああああ“

”衝撃波はこいつが?“

”強そう“

”強キャラっぽい“

”新種きたああああああああああ“

“大将頑張ってください!!”

“切り抜き班待機できてます!!大将やっちゃってください!!!”



明らかな新種の深層モンスターの登場に、コメント欄が沸き立つ。


同接がわかりやすく上昇を開始する。



「いきなりきたな…パワーキャラか?」


おそらく先ほどの衝撃波を放ったのはこいつだろう。


姫たるパワーの気配を感じる。


遠距離攻撃をしてくるのは、以前に遭遇したリザードマンキングに似ているが……しかしこいつはリザードマンキングよりも厄介そうだ。



『クケケケケ』


体のどこからか乾いた鳴き声が発せられている。


俺が出方を見ていると、ウサギのようにはねる奇怪なこのモンスターは、なんの予備動作もなくいきなり右拳を振り抜いてきた。



ドゴォオオオオオオン!!!



衝撃波が発生する。



「ふん!」


別にその必要はなかったのだが、俺は反射的に剣ではなく、拳で対応する。



ドガガガガガガガガガ!!!!



俺の衝撃波とモンスターの衝撃波が衝突し、相殺される。



「なるほど……パワー系、というか格闘系のモンスターなのか?」



これまでのモンスターと違い、こいつは何か能力を持っているということではなく、もしかすると純粋なパワー系のモンスターなのかもしれない。



『クケケケケ』



ドゴォオオオオオン!!!



「ふん」



ドガァアアアアアアアアン!!!


格闘系モンスターが再び拳を振り抜き、衝撃波が発生した。


俺も同じように応戦し、拳の撃ち合いになる。



“殴り合いきたああああああああああ”

“拳による頂上決戦きたああああああ”

“なんだこいつ!?普通に強くね!?”

“パワー系か”

“こんなに簡単に衝撃波飛ばせるのか。えっぐ”

“大将負けるなぁあああああああ”

“乱打戦だぁあああああああ”

“なんだこの戦いw w w神々の頂上決戦か何かかな…?w”

“格闘家にこの試合見せたいw心折れそうw”

“こういう正面からゴリ押してくるモンスター、久しぶりでいいね”

“神木にパワー勝負挑むのか。はてさてどうなるか…”

“おいおい、こんな撃ち合いしててダンジョン崩落しないか?大丈夫か?“

”盛り上がって参りましたああああああ“



突如始まった拳の撃ち合いに盛り上がる視聴者。


剣で対応せずに、このまま拳と拳の正面きっての殴り合い、とした方が配信的に盛り上がりそうだ。



「そっちがそのきならとことん付き合うぞ」


『クケケケケ』


モンスターが、拳の速度、威力をだんだんと上げていく。


俺もそれに伴い、どんどん拳の速度を上げていく。



幾重にも重なった衝撃波がぶつかり、削り合い、相殺され、余波でダンジョン全体がグラグラと揺れるのだった。



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