第107話



 放つ威圧感はこれまで相対してきたどの相手よりも強い。

 男が人間臭く肩を回したところで、フィンが動いた。

 先手必勝。相手が動きだす前に準備を整え、初手に大ダメージを狙うのはボスモンスター攻略では当然の作戦だった。


 フィンの速度はすさまじいもので、これまである程度抑えていたことが分かる。

 フィンの刃が見えた瞬間だった――。


 男はそれこそ呼吸をするように刀を抜いていた。

 フィンの一撃を受けとめる。

 さっき、見た光景とまるで同じ。

 そして、フィンの刃を弾き、フィンは腕を上にあげ、隙を見せてしまう。


 フィンの驚きとしまったという表情。

 男性の刀はすぐさまフィンを捉えようと動き、俺はその間へと割り込んだ。

 分かっていたから、最悪の未来を回避するために、俺は剣を振りぬいた。


「フィン!」


 男性が振り下ろしてきた刀を受けとめたが……なんつー馬鹿力だ。

 腕がへし折れそうになる。不安定な体勢だったこともあり、受け止めきれない。


 俺は力で押し返すことをやめ、相手の攻撃に弾き飛ばされる。

 その際に、片手をフィンの腰に回すようにして抱きかかえ、ともに距離をとる。


 ……かなり、強いな。

 軽く振ったように見えたのだが、こいつは心して戦う必要がある。


 じっと観察していると、ボスモンスターはこちらをじっと観察し、それから軽く腕などを回している。

 ……まだ、攻撃を仕掛けてくる様子はない。今のうちに、立て直す必要がある。

 問題は……フィンか。


 彼女は青ざめた顔のまま、荒い呼吸をついていた。

 膝をつき、がたがたと震えているのを見るに、自分が死んでいたかもしれないというのは分かっていたのだろう。


「……大丈夫か、フィン」

「……だ、だいじょ……ぶ」


 絞りだすように出したと思われる声は、震えている。

 恐怖に支配されたような彼女に、今すぐに戦えというのは無理だろう。


「フィン。おまえは下がっててくれ」

「な、なにがどういう、こと?」

「あいつとは、俺が戦う。だから、とりあえずフィンは落ち着いてくれ」


 とん、と軽く肩を叩いてから、俺は両手に剣を持った。

 ボスモンスターは俺を見て、挑戦者を待つかのように悠然と立っていた。

 

 先ほど近接で打ち合ったときに見えたネームプレートを思い出す。

 ……リガルと書かれていたが、それがこいつの名前だろうか。


 とてもではないが魔物とは思えない名前だ。

 俺は右手に持った剣をリガルへと向ける。

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