第54話
イストキンのギルドへと戻ってきた俺たちは、すぐに職員に頭を下げられた。
「も、申し訳ございませんでした! 今回の依頼、どうやら『影の者』の方が関係していたようで……っ!」
ギルド職員の謝罪に、俺とオルエッタは顔を見合わせる。
「関係していたようでってことは、知らなかったのか?」
「は、はい。……どうやら、ギルド長と『影の者』で直接やり取りをしていたようでして……私もレウニスさんたちが出発した後で話を聞かされました。大変申し訳ございませんでした」
「いや、別に特になかったから大丈夫だ」
俺は苦笑しながら、職員に対してそういった。
上司の問題なのに職員が頭を下げなければならないというのは大変だ。
思えば、俺も司書の時は……いや、やめよう。
思い出しても、ため息を吐きたくなるだけだしな。
一度そういった経験をしていたこともあって、寛大な心をもって接することができた。
「とりあえず、この魔結晶の査定と買い取り、それと依頼達成の報告をしてもいいか?」
「分かりました。……魔結晶、こんなにあったのですね」
「ああ」
背負っていた鞄を渡すと、ギルド職員は驚いた様子で目を見開いていた。
魔結晶の量はあまりにも多いため、他の冒険者たちにもちらちらと視線を向けられている。
これは、今後は少し警戒した方がいいかもしれないな。
金を持っている冒険者が襲われた、なんて話は良く聞くしな。
依頼の掲示板前にあるテーブルとイスが置かれた休憩スペースに向かい、査定が終わるまでそこで待つ。
ここは本来、冒険者たちがパーティー募集をする際に使う場所だ。
ただ、今の時刻は夕方であり、今から冒険に向かう人は少ないため、すぐに席を確保できた。
「あの、レウニスさん」
ちょんちょんと、テーブルに乗せていた腕をつつかれる。
オルエッタだ。
「なんだ?」
「今ってレウニスさんってパーティーは組んでいるんですか?」
「いや、特には組んでないけど……」
「それなら! どうでしょうか! 私と一緒に組みませんか!」
「嫌だ」
「なんでですかぁ! 私の職業ですか!? でも、荷物持ちでも頑張りますよ! 自衛くらいはできますよ! ステータスはいいですから!」
泣き顔ですがりついてきたオルエッタに、俺は色々と思案していた。
……オルエッタとパーティーを組むのは、悪いことではないと思う。
俺の最終目標はラグロフを救うことだ。
ただ、ラグロフがどのようにして命を落としたのかは、分かっていない。
現状、俺が持ち合わせている情報は、Sランク迷宮にて死んでしまったということだけ。
恐らくは魔物との交戦中に死んだのだろうが、その脅威を俺が強くなったところで一人で対応できるかは未知数だ。
だから、強い仲間を集めるというのも、同時並行で行っていきたいと思っている。
ラグロフが参加した迷宮攻略には、他のSランククランの代表者たちや有力な者たち参加し、その半数が死んでしまった。
この時間軸でも、恐らく同じ人間たちが参加するとは思うが、何もしなければ俺の知っている未来と同じ末路をたどるだろう。
だから、俺がやるべきことは、本来参加不可能だった人員を掘り出し、Sランク迷宮攻略に参戦させることだ。
そういった意味で、オルエッタは恐らく有望株だ。彼女の職業からして、Sランク迷宮攻略には参加していないだろうからな。
でも、今は自分のことで手一杯であり、オルエッタの面倒までも見る余裕はない。
パーティーを組めば、経験値は分配されるため、お互いの成長が遅れてしまうしな。
あと、何といっても……ちょっとおつむの方が……。
「俺は……次の成人の儀までに何としてもSランク冒険者になりたいんだ」
明確な理由は伝えない。
……だって、未来を知っているとか言ったら普通の人はおかしな奴だと思うだろう。
よほど信頼できる相手でなければ、伝えないほうがいいに決まっている。
「Sランク冒険者ですか?」
「ああ」
驚いたように目をぱちぱちとしていた。
……馬鹿にされるだろうか?
そんなことを考えていると、彼女は目を輝かせた。
「目標が明確で凄いです! 私もなりたいです! 一緒に頑張りませんか!?」
「……パーティーを組むと、経験値が分配されるし、成長に時間がかかるんだ」
「それでは、実際に迷宮では別々に行動するのはどうですか!? 一緒の目標があれば、切磋琢磨で頑張れますしね!」
「いや、それはそうかもしれないが……」
「それでは、よろしくお願いします!」
ぺこり、と頭を下げてきたオルエッタに、俺は頭をかくしかない。
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