第53話
まあ、『影の者』がこうして活動してくれているおかげで、凶悪な冒険者が多少は減っているんだけどさ。
「ベヨングたちのこれまでの犯行、またあなたたちへの明確な殺意を言葉などはまだ多くは録音できていませんでした」
そういって、彼は魔石を取り出す。
録音魔石だろう。音声を記録するときに使うもので、犯罪を取り締まる際や何か重要な契約をする際に使用されるものだ
「先ほどの発言でようやく彼らの殺意の証明ができました。……こちらは、せめてもの謝罪です」
ナンバー48はそういって、俺たちの手にポーションを渡してきた。
ぱっと見ただけではあるが、おそらく最上級ポーションだ。
一本かなりの値段がするのだから、謝罪としては十分か。
「そうか。ありがたく受け取っておくよ。それで、俺たちはもういいのか?」
「はい。ギルドには僕の仲間から報告を行っておきます。こちらの魔結晶と、今回の依頼達成の報酬はお二人で分けてください」
「……いいのか?」
「それも、巻き込んでしまった慰謝料のようなものだと思ってください」
ナンバー48は仮面をつけているので表情は分からないが、笑ったように感じた。
俺も、笑顔になってしまう。
魔結晶を二人で山分けとなれば、一人五百万ゴールドはいくだろう。
そうなれば、【リジェネ】ではなく、より即効性が高く、便利な回復スキルが購入できるかもしれない。
それさえ手に入れれば、ひとまず俺が欲しかったスキルはすべて集まるわけだ。
「それなら、ありがたくもらうよ」
「ええ。それと、レウニスさん。あなたって今クランに興味ありませんか?」
「クランは……別に興味ないな」
「そうですか。うちのクランとかどうですか? 魔物さえも騙す演技力と、あれだけの実力。あなたは立派な『影の者』になれると思いますが……」
「……『影の者』もわりと普通にスカウトとかしてくるんだな。いや、いいよ。俺は人間よりも魔物と戦いたいしな」
目的がある以上、クランに所属して自由に動けなくなるのは嫌だった。
クランとか考えるのは、ラグロフを助けてからだ。……ラグロフを助けるのにクランが必要ならまだ考える余地はあるが、『影の者』は迷宮に関してよりも人に関しての事件を解決するほうに注力している。
Sランク迷宮に関してでいえば、あまり適正はないと思える。
「そうですか。それは残念です。呼び止めてしまって申し訳ありませんでした。それでは、またいつか会えたらその時はよろしくお願いします」
「……おまえとまた会うってことは、面倒事に巻き込まれた後ってことだろ?」
「さて、どうでしょうか」
ナンバー48がくすくすと笑う。
……彼らは皆【変装】のスキルを所持していて、いくつかの顔を持っている。
ナンバー48が、再びキューダとして姿を見せることはもうないだろう。
ちなみに、【変装】のスキルは、SSランクのスキルであり、無断で使用するのは禁止されている。
【変装】のスキルはすべて『影の者』と一部の騎士たちで管理しており、【変装】を使用する場合は申請を行い、どのような用途で使い、どのような人間に【変装】するのかを事前に伝えておく必要がある。
『影の者』に憧れる人は多くいるが、俺としてはとても大変そうなクランという認識だった。
「レウニスさん。荷物は私が運びますよ!」
「いや、俺も手伝うって」
「怪我をしていましたし、ゆっくり休んでください! それに私、筋トレが趣味なので力には自信があるんですよ!」
そういって、オルエッタはずいっと鞄を持ち上げる。
……魔結晶が入った鞄なので、結構な重量だとは思うが、オルエッタは軽々とした様子だ。
そういえば、オルエッタのステータスはオール400近くある。
毎日筋トレもしていると言っていたし、武器はあの重たそうなハンマーだ。
……この子、意外とパワータイプなのかもしれない。
そんなことを思いながら、共に迷宮を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます