第35話
Gランク迷宮攻略から数日が経ち、『ルーベルク宛』に届いた手紙を手に取った。
ここは、ハンターブロー、ベーグルティ支部の自室だ。
僕は自分の席について、その手紙を読んだ。
『レウニスという冒険者についてのスカウトについてだが、Gランク迷宮の攻略自体はまぐれの可能性もある。暗黒騎士、HP2というステータスは所属している冒険者からも白い目を向けられる可能性が高く、意欲を削ぐ可能性も高い。彼のスカウトはしないでくれ』
「やはり、ダメか」
ついつい呟くように言ってから、手紙を畳んだ。
手紙の内容に、納得はしていなかったが理解している。
僕のクランでの仕事は思うにスカウト業務だ。もちろん、今回のように迷宮攻略を失敗した際の手伝いなども行っている。
……優秀な新人は他のクランもすぐに目をつける。そして、大手クランにスカウトされれば、だいたいの人は入団を決める。
だから、成人の儀の際にはその会場周辺にたくさんの部下を置き、欲しい人材を逃さないようにしているのだ。
ただ、スカウトはそこだけで終わりではない。
その後の成長やスキルの獲得、あるいは覚醒する可能性も考慮して、スカウトは継続的に行っていくものだ。
成長し始めた冒険者を、見逃さないようにするため各クランはあちこちの街に支部を置き、スカウトを配置している。
先ほどの手紙は、レウニスをスカウトしてみていいかと、上に相談を出していたのだ。
しかし、返事は冷たいものだった。
『Gランク判定の冒険者をスカウトできるはずがない』
僕は、彼が持つスキルやステータスの相性について説明したが、上には突っぱねられてしまった。
……もちろん、分かっているんだけどね。
大手クランともなれば、所属している冒険者の数はかなりのものだ。
その中で、ステータス的に不遇の者が入ったとなれば、コネとか変な疑いをもたれる。
最悪、今後の新人冒険者の入団希望が減っていく可能性もあるため、特殊な経歴の人間のスカウトは慎重になる必要があるのだ。
周りが納得するほどの実績を上げるか、あるいは他に何か分かりやすい強さがあるのかなどだ。
ただ、僕のスカウトとしての勘が告げている。
レウニスは、絶対に有名な冒険者になる!
Gランク迷宮とはいえ、一人でボスモンスターを仕留めた。
おまけにいえば、ユニーク化した、ボスモンスターだ。
そんな新人冒険者などいない!
危機的状況で、なお絶望せずに立ち向かい、見事突破できるだけの運と実力と度胸……!
そして何より、荷物持ち二人からの厚い信頼。短い時間で人に信用される、人間としての器の大きさ。
何より、目が違った。
何か確固たる意思を秘めた彼の両目から、僕は強いエネルギーを感じ取った。
……ああ、もう。手紙ではなく、実際に会ってみれば考えも変わるかもしれないのに!
もどかしい気持ちはあったが、僕はそれ以上何も言うことはできない。
これらの人間的な力強さは生まれ持っての才能で、ステータス以上に重要なことだ。
今後、成長が伸び悩んだとしても、彼は確実にC、Bランクまでは上がるはずだ。
トップ冒険者になれずとも、今の僕のような立場に治まる可能性は十分にある。
部下や新人冒険者の良い見本になれる存在になると思うんだがなぁ。
「ああ、こういう時大手クランは動きにくいなぁ」
そんな愚痴をこぼしても、どうにもならないんだけど。
とりあえず、レウニスが目立った実績を残した瞬間にスカウトできるよう、彼を見守りたいのだが……僕はこの街のスカウトリーダーなので、街から離れるわけにはいかない。
レウニスがずっとこの街に残っているのなら、それはもう僕が常に監視するんだけど……仕方ない。
誰か代理に任せるとして、僕も溜まっている仕事を片付けないと。
「とりあえず、入団希望者たちの素行調査しないとなぁ……」
他のクランでは、素行よりも実力を重視する場所もあるが、『ハンターブロー』がもっとも重視しているのは素行だ。
例えば、今回のイソルベのような人間は絶対に入団させてはいけない。
そのために、共に依頼を受けた人間に聞きこみ調査などをして、その冒険者が人間的に問題ないかを調べるのだが、これが結構大変だ。
「……さて、行こうか」
気持ちはレウニスに傾いたままだったけど、一度忘れないとなぁ。
そうはいっても、あのとき感じた気持ちを消すことはできなかった。
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