第34話


 ギルドに戻ったところで、イソルベがこちらへとやってきた。

 だが、俺たちに気づいたイソルベは驚いたように目を見開いていた。


 それは当然の反応だろう。

 彼は、俺たちを囮に使ったのだからな。

 しかし、イソルベがその焦りの表情を見せたのは一瞬だった。

 俺の方へとやってきて、抱き着いてきた。


「良かった! 無事だったんだな! 心配していたんだ!」

「……は?」


 俺が思わず戸惑いの声を上げると、イソルベは耳元で低い声を上げた。


「……余計なことを言ったら、殺すぞ」


 それは脅しだった。

 どうやら、イソルベは俺たちを囮にしたことを隠したいようだ。

 イソルベが入団予定のクランは『ハンターブロー』だ。


 ルーベルクたちにチクられれば、入団は絶望的だろう。

 ましてや、冒険者としての活動にも制限がかかるかもしれない。


 しかし、だ。

 すでに手遅れなんだよなぁ。

 ルーベルクはイソルベの肩を掴むと、俺から引きはがした。


「イソルベ。キミは彼らを囮にしたそうだね」

「な!? そ、そんなことありえませんよ! おい! 何を嘘吹き込んでいやがる! まさか、オレに嫉妬してか!? ルーベルクさん! 騙されてはいけません!」

「悪いけどね。荷物持ちの子たちが揃って脱出に遅れるはずがないんだよ。普通に考えれば、荷物持ちの子たちは魔物からもっとも離れた場所にいるんだしね」

「そ、それは……か、彼らはわりと戦えるので、前線にも出てきていた、ので……」

「レウニスは確かにそうかもしれないけど、他二人はそこまでの戦闘能力はないでしょう? 僕たちのクランはキミのスカウトを辞めるつもりだ。おって、ギルドから今後の活動についての判断もされるはずだ」

「ぎ、ギルドからもですか!?」

「当たり前だろう。それじゃあね、イソルベ。まだまだ冒険者生活は長いんだ、無茶はしないようにね」


 ルーベルクはそう言って、イソルベから手を離した。

 イソルベは絶望的な表情で、ルーベルクに手を伸ばしたが、その間に別の冒険者が割って入る。

 『ハンターブロー』の人たちだ。


「これから、ルーベルクさんは色々やらなけれならないことがあるんだ。何か話しがあれば、代わりに聞くが?」

「そ、それは……」


 イソルベは『ハンターブロー』の人たちに囲まれ、顔を顰めていた。


「……色々思うところはあるけど、ちょっとだけでも痛い目にあってくれたから、まあいいかな?」


 涙を流しているイソルベを見て、ミーナがぼそりと言った。

 それにルファンも苦笑を浮かべている。俺もきっと似たような表情をしていただろう。


 ……とりあえず、これで今回の依頼は終わりだ。


 残念なのは、当初の契約通り、報酬がイソルベを除く皆で山分けになることくらいか。

 特に荷物持ちの人たちは、普通よりも報酬の割り当てが少ない。


 まあでも、俺としては貴重な戦闘の経験を積めたんだし良しとしようかね。

 

「それじゃあ、これで解散だな。二人とも、色々ありがとな」


 俺がそういうと、ミーナとルファンは笑顔を向けてきた。


「ううん。むしろ、レウニスさんがいなかったら私死んでたかもだし……感謝は私の方だよ。本当にありがとう」

「うん……レウニスくんはきっと立派な冒険者になるよ。死なないように、頑張ってね!」


 嬉しい言葉を聞けた俺はついつい口元が緩んだ。

 ……前世の冒険者生活とは、まるで違うスタートになったが、前世よりも前に進めているのは確かだ。

 外に出た後、俺は彼らと別れ伸びをした。

 

 大変な体験をしたが、ラグロフの危機を取り除いたわけではない。

 俺は前へと進み続けなければいけない。


 さらに強くなるために、今日の筋トレメニューをこなさないとな。


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