第3話
父は俺が返事をすると安堵した様に声を上げ、嬉しそうに口元を緩める。
「まったく。次はおまえの能力測定の番なんだからな。しっかりしろよ?」
父がそう言って俺の背中をとんと押す。
前へと押し出された俺が顔を上げると、忌々しいクリスタル型の能力測定器があった。
これで、ステータスを判断することができるのだ。
そして、周囲にはたくさんの貴族が集まっていて、皆、俺のステータスを見るのを楽しみにしているようだ。
ここにいる人たちは、俺も良く知っている。
何度も何度も悪夢として見てきたからだ。
何が、どうなっているんだ……?
俺は図書館で本を見ていて……それで急に意識が遠のいて……。
……眠ってしまったのだろうか?
また、いつもの悪夢か。
そう思っていた俺だったが、いつもと明らかに違うのは自由に動く体だった。
悪夢として見ていた時は、こんな風には動かなかった。
ただただ、俺が情けないステータスを晒し、家を追放され、涙を流す惨めな俺を見続けることしかできなかったのだ。
悪夢ならば、今すぐに目を覚まして逃げ出したい。
そう思った俺は古典的ながらも体に痛みを与えて目覚めることを決断する。
ほっぺたを抓ってみると、とても痛かった。
駄目だ、起きられそうにない。
「レウニス、どうした?」
突然頬を抓りだしたからだろう。まだ俺に期待していた父が、心配そうに顔を近づけてきた。
心配そうにしているのは父だけではない。
知り合いの貴族たちも揃って同じような表情をしていた。
まだ、皆は俺に期待しているようだった。
それも、そうか。
俺はユシー家という名門冒険者の家に生まれた。
ステータスなどは親からも遺伝しやすいらしいので、それはもう俺も期待されている。
父と母はどちらもAランク冒険者として活躍していた。
数少ないSランク冒険者になるかもしれないと、皆が俺に期待するのは当然だった。
この期待をこれから裏切ることになるため、一刻も早く俺は夢から目覚めたかったのだが……まるで目覚める様子はない。
「ほら、レウニス。早く測定してみろ」
父が急かすように背中を叩いてきた。とんとさらに一歩前へと出て、測定器へと近づく。
俺は、いつも見ていた夢と違う展開になっていることについ考えてしまう。
なんで、今回ばかりはいつもの夢と違って自由に動けるのだろうか?
しばらく混乱して足を止めていた俺に、父は痺れを切らしたのか、腕を引いてきた。
強引に測定器の前に連れていかれた俺は、それから父に笑みを向けられた。
「レウニス。ここに手を当てるんだ。そうすれば、おまえはステータスを与えられるんだ」
別に使い方が分からず固まっているわけではない。
俺はじっとクリスタルを眺め、その磨かれた表面に反射する自分の顔を見た。
十五歳の時の俺が、そこには映っていた。
まあ、過去の夢なんだから当然か。
生々しいほどの感覚があるこの夢に僅かな疑問を抱きながら、俺は片手をあげた。
いつもと多少夢の内容が違うとはいえ、どうせ結末は変わらないだろう。
さっさと終わらせて、一度目を覚まそう。
そんな投げやりな気持ちとともに、クリスタルに掌を触れた。
ひんやりとした感触を意識した瞬間、クリスタルが強い光を放った。
それから、クリスタルから空へと、俺のステータスが映し出された。
レウニス レベル1 職業:暗黒騎士
HP2/2(限界値) MP150/150 力106 体力107 魔力108 速度105
職業スキル【暗黒騎士:レベル0】【暗黒魔法:レベル0】【暗黒騎士強化:レベル0】
はいはい。いつものね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます