第4話


 俺はその弱すぎるステータスを見て、ため息をついた。

 同時に思いだすのは、図書館でみたスキルだ。


 もしも、ここからやり直せれば、俺は最強の冒険者になれるのになぁ、なんて考えながら、さっさと夢から目覚めるのを待っていると、


「職業は……最弱の暗黒騎士……っ! それに、なんだそのステータスは!」


 父の怒鳴り声が響き渡る。

 その声に、混ざるように聞こえる嘲笑の数々。

 俺はため息まじりに、父へと視線を向ける。


「暗黒騎士とHP2の最弱ですね。どうしようもないですよこれ」


 他人事のように、肩を竦めながらそう言うと、ばちんと強く殴られた。

 衝撃に吹っ飛んだ俺だったが、何とか受け身はとった。


 咄嗟に受け身を取れたのは、日々の鍛錬のおかげだろう。若い体最高。


「ふざけるな!! 貴様ァァ! なにをあっけらかんと言っている!」


 父は顔を真っ赤にしたままこちらへと駆け寄ってきたが、俺は体を起こしながら他人事のように眺め続けていた。

 さっさと、夢から覚めてはくれないだろうか。

 しかし、その願いが叶うことはなく、俺は執事たちとともに屋敷へと戻ることになった。




 屋敷に戻ってきた俺は、それからの自分の立場について伝えられていく。

 

 とりあえず、家からは追放される。

 追放する上で、貴族の場合は子どもに対して支度金を支払う必要があるそうだ。なんか昔色々あってそうなったらしい。  簡単に言うなら、親が子どもを無責任に追放してはいない、とするためのものだそうだ。


 それらの説明と、契約書を渡された俺は、トドメとばかりに支度金と最低限の衣服が入った鞄を渡され、屋敷の前に放り出された。

 

 俺は鞄を抱きかかえながら、屋敷の門をボケーっと眺めていた。

 ここまでおおよそ三時間ほどの出来事だ。ユシー家は一刻も早く俺との縁を切りたいようだ。


 ボケーと眺めていると、門の近くに兄がやってきた。

 門越しではあるが俺へと近づいてきた兄のバルーダは、にやりと笑みを浮かべる。


「よお、落ちこぼれ。なんかお前ステータスはゴミで職業はカスだったんだろ? マジウケるな」


 俺は兄の馬鹿にした言葉を、「はあ、そうですか……」という気分で流していた。昔は、そう言われて反抗的な態度を見せたものだが、今はさっさと夢が覚めないかということばかりを考えていた。

 一言も話せていなかった俺の反応を、どうやら兄は落ち込んでいると勘違いしたらしい。

 舌を出し、さらに馬鹿にしたように笑ってきた。


「いい気味だな。さっさと野垂れ死んでしまいな、カスが」


 兄はそう言って、屋敷へと戻っていった。

 わざわざ俺にマウントを取るためだけにここへ来たのだろうか。

 そんな暇があるのなら、剣の鍛錬でもしていればいいのに。


 兄があそこまで俺を憎んでいたのは、ステータスをもらう前の時点では少なくとも俺の方が優秀だったからだ。

 剣や勉学で、俺は兄よりも優れていた。だから、兄は俺を憎んでいたのだろう。

 俺は立ち上がり、鞄を肩に乗せて歩き出す。


 それにしても、いつまで夢は続くんだろうな。

 そんな思考の後、俺はため息を吐く。


 ……さすがに、これが夢ではないんじゃないか? という思考は出始めている。

 長い。長すぎる。そして、あまりにも本物らしさがあった。

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