第5話
大きな焦りと驚き、そして僅かな興奮が湧き上がる。
……もしかして、これは夢じゃないのか? いやいや、夢じゃなかったらなんだよ?
俺の意識が過去の俺に憑依したとでもいうのか?
本などで読んだことがあるな……。確か、タイムリープっていうんだったか?
その本は娯楽小説のようなもので、主人公が過去に戻って最悪の未来を回避するというものだったはずだ。
本当にタイムリープしたのか?
いやいや……。
俺は、自分の最後の記憶を思い出していく。
図書館で司書の仕事をして、そして意識を失って……その後は何も覚えていない。
「おい。レウニス」
まったく思いだせないが……酒を飲んだのなら、きっとどこかで酔いつぶれて寝たはずだ。
ということは、やっぱりここは夢、なのか?
「レウニス。聞こえているのか?」
「なんだよ! 今考え中なの! 静かにしていてくれ――」
俺は振り返り、そこにいた男に目を見開く。
少し表情は険しいが、彼を美男子と認めないものはいないだろう。
「ら、ラグロフ」
彼の名を呟く。
……俺がもっとも大切だった友人の名。
もう、二度と話すことはできないと思っていた人が目の前にいた。
「なんだ……? そんな死者にでも遭遇したかのような顔は……」
ラグロフは美しい金髪を揺らし、切れ長の冷たい瞳でじっとこちらを見ていた。怪訝そうな目つきをしていた。
しかし、俺はそんなものお構いなしに感情を爆発させた。
「ラグロフ!」
俺は抱きつこうと飛びついていた。
湧き上がる喜びの感情を抑えることができなかった。
しかし、ラグロフは持ち前の身体能力と、入手したであろうステータスの力を持って、俺をつき飛ばした。
衝撃に地面を転がった俺は、何とか体を起こすと、ラグロフは腕を組みながらこちらをじっと見てきた。
「いきなりなんだ。気持ち悪い」
ラグロフはその整った顔を険しくして、睨みつけてくる。
まあ、いきなり抱きつかれそうになれば、そうなるよな。
多少のスキンシップとしてそのくらいはあるが、今この状況で適したものではなかったしな。
いけない。ちょっと落ち着こう。
服についた汚れを払いながら、俺は誤魔化すように笑ってみせた。
「悪いな。えーと、それでどうしたんだ?」
まだ興奮は残っていたが、それでも努めて冷静に問いかけた。
……ここは夢ではないのかもしれない。
となると、過去の自分に憑依したのか。あるいは……転生でもしたのか?
どちらにしろ、司書として生きた自分はひとまず前世という扱いにしよう。
本当に過去に戻ってこれたというのなら、前世の悲惨な未来のいくつかを俺は修正したい。
その最たるものが――ラグロフの死だ。
彼をどうにかして救いたい。
そのためにも、今後の動きが重要になってくる。
ラグロフを見ながら、これからの流れについて前世の記憶を思いだしていく。
「その、聞いたのだが、おまえ……成人の儀の結果が微妙だったんだろう?」
ラグロフは言葉を選ぶようにして、問いかけてきた。
俺が気にしていると思っているのだろう。
「まあ、そうだな」
ラグロフは俺の成人の儀に参加する時間はなかった。
彼も俺と同じ貴族であり、別の時間に成人の儀を行い、その後のお祝いにも参加させられていたからだ。
ラグロフのステータスと職業は、完璧だったんだよな。
ステータスはすでにBランク級であり、『勇者』の職業だったとか。
ちなみに俺のステータスはGランク級だ。
一般的にはFランク級が一番多いので、Bランク級ともなればその異常性は十分だろう。
「別に、心配というわけではない。……大丈夫なのか?」
ラグロフはあまり感情表現が得意な人ではない。
彼の不器用な気遣いに、苦笑を返した。
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