第2話


 職業は先天的なもの。

 スキルは後天的に獲得できる。

 スキルは迷宮でドロップするスキルストーンを使用することで獲得可能だ。


 職業に合ったスキルを選択することで、より戦いやすくなるのだが、俺の場合はそういった問題でどうにかできる話じゃなかった。


 それは、HP2という問題点。何より、これ以上成長はしないという(限界値)という絶望的な文字。

 通常ステータスは日々の鍛錬とレベルアップで上昇するのだが、限界値に到達したステータスはそれ以上上がらないのだ。

 

 一応、覚醒することで限界値を超える手段もあるのだが、あまり現実的ではない。

 覚醒の仕方が分からないのだ。


 限界の戦いを繰り返したものだけが、覚醒できるとか。

 朝起きたら覚醒していた場合もあるだとか。

 ……とにかく、狙ってできるものではない。


 HP2というのは、俺の職業と非常に相性が悪かった。

 暗黒騎士は、基本的にはパーティーのタンクを務める。

 

 タンクとは、敵の注意を引きつけ、仲間が動きやすいように立ち回る役職で、敵の攻撃を受けやすいことから通常はHPの高い人が務めるのだ。

 ……そう。俺のステータスとこの職業の相性は最悪という他ないのだ。


 だから、俺は家を追放されたんだしな。


 俺はもともと貴族の家の生まれだった。

 そこは優秀な冒険者を数多く輩出する家だったが、このステータスと残念職業が理由で成人の儀が終わるとともに追放してきたくらいだからな。


 事実、その判断は正しかった。

 俺は何とかして見返そうと冒険者活動をしてみたものの、まるで歯が立たなかったのだ。


 けど、この『根性』スキルを手に入れれば……もしかしたら冒険者として戦えるかもしれない。

 HPは2あるので、条件を満たせれば……どんな攻撃も1で耐えられるはずだ。


 そして、最大HPも2しかないので回復もすぐに終わる。

 ほぼ無限に敵の攻撃を受けとめられるタンクが完成するかもしれない。

 このスキルさえ手に入れば、俺だって、最強のタンクになれるはずだ。

 そう思うと、興奮が湧き上がる。子どものときのような高揚感。

 しかし、それは一瞬。現実へと引き戻されるように、老いた体が咳き込んだ。


「ごほごほ……いまさら、だよな」


 俺ももう六十五だ。多くの冒険者が現役から引退する年齢だ。

 ここからはレベルを上げたとしてもステータスの伸びは微々たるものだ。日々の鍛錬でもたいして上がることはないだろう。

 そればかりか、年齢が進むにつれてステータスも低下していく。


 稀に、ステータスの低下が遅い人もいるが……俺も着々と衰えているからその例外ではないだろうし。

 俺はこれまでにも見つけてきた有用なスキルの数々を脳内に思い浮かべながら、深いため息をついた。


 もっと早く、たくさんのスキルについて知ることができていれば――。

 そうしたら、もしかしたら大切な友人だったラグロフを失わずに済んだかもしれないのに――。

 俺をこの職場に斡旋してくれた親友とも呼べるラグロフの顔を思い出す。


 俺と同い年だったそいつは、Sランク迷宮の攻略において命を落としてしまったのだ。

 もしも、この知識を持っていれば、友人を助けられたかもしれない。

 すべてがもう遅い。

 強い悲しみとともにその本を閉じようとしたときだった。


 急な眩暈に襲われる。

 ふらりと傾き始める視界。

 体が崩れ落ちる。

 助けを呼ぼうとしたが、声は出ず……俺はそのまま意識を失った。



「おい、レウニス! レウニス、大丈夫か!?」

 

 自分を呼ぶ声に、目を開ける。

 目の前には……若い男性がいた。

 ……俺の父親だ。


「え……?」


 思わず当惑の声が出てしまった。

 父はすでに亡くなっていて、いるはずはない。

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