第76話


 次の日の朝。


 俺が外でトレーニングをしていると、ラーナさんがやってきた。

 こちらに気づいて近づいてきたので、俺に用事があるのだろうか?

 

 剣の素振りをしていたところだったが、俺は一度動きを止め、持っていたタオルで汗を拭う。


「あんなに強いのに、まだトレーニングもしてるんだね」

「まあ、基本ステータスを強化するにはこれとレベルアップしかないからな」


 俺のレベルはすでにかなり高くなっている。

 にもかかわらず、才能ある人たちと比べるとやはり低い。

 レベル1の段階でオール700あるようなラグロフの事例を見ていると、自分のステータスがいかに低いのかと嘆きたくなる。

 それでも、鍛錬を積めばゆっくりとではあるが成長できるので、これをやらない理由はない。


「凄いなぁ……とと、感心しにきたんじゃなくてね。はい、これ。ラブレター」


 ラーナさんは手に持っていた手紙をこちらに渡してきた。

 丁寧に封のされたそれは、ラブレターというには無骨だ。


「これはなんだ?」

「もう、ちっとも信じてくれないんだね。それは、ギルドあての手紙だよ。今回の迷宮を攻略したので、確認お願いしますって感じのことが書いてあるんだ」


 一応、今回の迷宮の攻略権に関してはラーナさん名義で落札をしている。

 だから、代表者として手紙を書いてくれたのだろう。

 つまり、ラーナさんはギルドには戻らず、


「……ってことは、村に残るのか?」

「ちょっとね。昨日お父さんが戦ってるときみたけど、腕をかばうようにしてたんだよね。……本人は大丈夫だって言ってるけど、どうにも傷が残ってるみたいで……心配でね」

「そうか。……仲直りはできたのか?」

「仲直りっていうか……まあ、とりあえずは」


 照れた様子で頬をかくラーナさん。

 ラーナさんが父を心配して残るというのなら、俺も止めるつもりはない。

 俺の評価も十分上がったし、荷物持ちも不要となったな。

 手紙をポケットにしまいながら、ラーナさんに訊ねる。


「それじゃあ、しばらくは村で自警団として活動するのか?」

「まあ、そんな感じかな。どうせ私はもう成長しないんだし……迷宮とかに潜る必要もないんだしね」


 ラーナさんは自嘲気味の口調とともに肩を竦める。

 俺はラーナさんの前世のことを思い出す。

 ……前世でラーナさんはどうやって覚醒したのかは分からない。

 だが、向上心がない状態でステータスは成長するのだろうか?


 ……分からない。

 今のようなラーナさんの心持ちで村にいたから、覚醒した可能性もある。

 俺がラーナさんを村に連れてくるように干渉してしまったせいで、彼女の未来については分からなくなってしまった。


 だけど……。


「鍛錬は、続けたほうがいい」


 きっと、努力は裏切らないと思う。


「え?」

「ラーナさんは、まだまだ強くなれる。壁だって越えられる」

「……はは。気遣ってくれるのは嬉しいけど、私にはもう無理だよ。どれだけ頑張っても、限界を超えることはなかったんだからね」

「……そんなことはない。ラーナさんは――」


 そこで一度言葉を区切り、俺はそれから顔を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る