第77話


「あなたは、覚醒できる」

「……レウニスくん?」


 俺の言葉に、驚いたように目を見開く。 

 それもそうだろう。

 これまで努力してきたラーナさんからすれば、何を言っているんだという気持ちだろう。


 人によっては、無責任なことを言うなと怒るかもしれない。

 だから俺は、彼女に言葉を続ける。


「ラーナさんは……その、夢で見たんだ。覚醒して活躍している姿を。……俺がここまで効率よくレベル上げをしているのも、その夢のおかげであって……まあ、気休め程度に信じてくれ」


 ……前世がある、とか。未来を知っているとか。

 そういう言葉よりは濁したほうがまだ受け入れられるだろうと思い、そう伝えた。

 俺の言葉に、ラーナさんはきょとんとしてから、苦笑する。


「そうなんだ。夢、かぁ……本当に覚醒できたら……いいんだけどなぁ。でも、レウニスくんが凄い強いっていうのもその夢のおかげなら……信じちゃおうかな?」


 冗談めかしながら笑顔を振りまくラーナさんに、俺は小さく頷いた。


「……ああ、信じてくれ」

「うん……分かった。もうちょっとだけ、頑張ってみるよ。……それじゃあ、また出発するときにね」

「分かった、それじゃあな」


 ひらひらと手を振るラーナさんに、同じように手を振り返す。

 俺がその背中を見送ったところで、建物の陰へと視線を向ける。

 そこにはオルエッタがいた。本人は建物の陰に隠れているつもりなのだろうが、気配で分かる。

 途中から気付いていたのだが、彼女がいると話が脱線することが多いので、特に何も言わずにいた。

 じっと見ていると、オルエッタはゆっくりと逃げるように動きだしたので、名前を呼ぶ。


「オルエッタ、どうしたんだ?」


 驚いたのが、空気で伝わってくる。

 そそそーと顔だけを陰から見せてきて、それから困ったように笑う。


「……い、いえその。お二人が密会をしていたので、割り込んでしまうのはいけないと思いまして」


 密会って。

 

「話は聞こえていたと思うが、別に隠れて聞くようなものじゃないだろ?」

「……そ、それはそうなんですけど。ご盗み聞くつもりとかはなくてですね。トレーニングから戻ってきて、鼻歌歌いながら戻ってきたら二人が話していて……ど、どうしようと思いまして……反射的に隠れてしまいました。ごめんなさい」


 オルエッタは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

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