第93話
俺は再確認するようにフィールに声をかける。
「本当にいいのか?」
「……ええ。大丈夫よ」
本当に大丈夫なのだろうか。
フィールの警戒心はまだ残っているようだったが、俺もここにいようか。
先ほど捕らえた男たちがすべてとは限らない。
仲間がいて、万が一報復に来た場合、俺がいたほうがいいだろう。
次の日の朝。
結局、昨日の夜は落ち着いていたんだよな。
寝る前までオルエッタが部屋に遊びに来てずっと話をしていたくらいしか問題はなかった。
朝のトレーニングを終えて『仮面の英雄』のクランハウスへと戻ってくると、部屋には良い匂いが充満していた。
「あっ、おはようございます」
「おはよう」
オルエッタが笑顔とともにぺこりと頭を下げてくる。
ちょうど朝食の準備をしていたようだ。
テーブルに料理が並んでいる。
卵料理と野菜スープと魚の塩焼きだ。
宿の食事に比べると、かなり豪華に見える。それに、どれも美味しそうだ。
「これ、全部、フィールが作ったのか?」
「ふふん、私もですよ」
「……え、オルエッタ料理できたのか?」
「できますよっ! お姉ちゃんと一緒に良く作っていましたからね!」
……意外だ。
オルエッタが頬を膨らませて睨んできたので、俺は逃げるようにその隣にいたフィールを見る。
「悪かったって。体調は大丈夫なのか?」
「……ええ、とりあえずは。少し風邪をひいてしまっただけだから、激しい運動をしなければ問題ないとも医者にはいわれているわ」
「そうか」
なら、料理くらいは大丈夫なのか。
少し心配だったが、本人がそういうのならそれまでだ。
食器並べを手伝ってから、席に座り、食事を始める。
……き、気になる。
オルエッタからはじーっとこちらの反応を見るように。
フィールからはちらちらと視線を向けられる。二人とも、俺が手をつけるまで食事に手を出さないようで、俺はさっさと口に運んだ。
卵を一口サイズに切ってから口に運び、
「……確かに美味しいな」
「そ、そうかしら」
照れた様子のフィール。恐らく、これはフィールが作ったんだろう。
オルエッタからの視線はまだ終わらない。
自分が担当した料理を食べるまではこの状態が続くのではないだろうか。
俺が野菜スープの皿を手に持つと、オルエッタからの視線がさらに増した気がする。
これを彼女が作ったようだ。
「これも上手いな」
「そうですかっ。お口に合ったようで良かったです」
上機嫌に鼻歌を歌ったオルエッタも食事を始める。
朝から食事を楽しんでいると、ベルのような音が響いた。
「来客ね……こんな朝早くから誰かしら」
「知り合いとかじゃないのか?」
「特に用事はなかったと思うけれど……」
首をかしげながらフィールが席を立とうとして、俺が代わりに立った。
「休んでていいからな」
「あ、ありがとう」
一応、来客の対応くらいはしたほうがいいだろう。
まあ、もしもフィールに用事があるのなら結局この後変わる必要があるが。
食堂から出て、玄関のほうへと向かい、扉を開ける。
そこには意外な男性がいた。
「……確か……ルーベルク、だったか?」
以前、お世話になったことがある『ハンターブロー』の冒険者だ。
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