第92話


 それでもここまで驚かれてしまった。

 オルエッタのステータスは全体的に俺よりも高いはずなので、それを利いたらびっくりするかもしれない。

 ただ、俺のステータスはおそらく同じレベルの人と比べると微妙だ。


 ラグロフなんて、レベル1の時点で700近くあるんだしな。


「効率良くやっていければレベル上げ自体はスムーズに終わるってわけだ。オルエッタもかなり強くなってると思うぞ? 現に、依頼のモンスターはあっさり倒せたみたいだしな」

「……え? そうなの?」


 俺の言葉に、フィールはぴくりと頬をひきつらせた。

 フィールの視線に、オルエッタは申し訳なさそうにしゅんとした。


「……はい。その、加減が上手くできなくて一撃で倒したときに素材も傷をつけてしまって……」

「い、いやあなたに怪我がなければそれでいいわ。……そ、それにしても……一撃だなんて」


 フィールは現実のことと受け入れられていないようだ。


「とにかく、俺が求める条件はオルエッタを貸してほしいってことと俺が自由に活動することを許してほしいってことだ。もちろん、悪評を広めるような真似はしない。どうだ?」

「お姉ちゃん、レウニスさんは悪い人じゃないですから、……お願いします」


 オルエッタがそういうと、フィールは驚いた顔のまま、こくりと頷いた。


「もちろん、私としては断る理由はないわ。このクランに力を貸してくれるというのなら、むしろ私からお願いしたいわ」


 フィールは一度頭を下げたあと、こちらに手を差し出してきた。

 その手を握りしめ、頷く。

 これで、クランへの入団は決まりだ。


「それじゃあ、明日からさっそく迷宮の攻略に参加していくが……オルエッタはしばらくここで暮らすのか?」

「そう、ですね。お姉ちゃんが無茶しないか見張らないといけませんので」


 それをおまえが言うのか?

 フィールは腕を組み、少し照れた様子で頬を赤らめている。


「……別に、無茶はしないわ」

「無茶するもん。私が来なかったら、一人で依頼受けに行こうとしてたでしょ?」


 頬を膨らませたオルエッタがフィールをじっと睨む。

 フィールは居心地悪そうに視線を逸らしていて、俺は苦笑を返す。


「俺はあの宿にいるから、緊急の用事があれば呼んでくれ」

「あっ、レウニスさんも部屋は余っていますしここに留まっていけばいいんじゃないですか?」

「えっ? ちょ、ちょっとオルエッタ……!」


 フィールが顔を真っ赤にして、俺とオルエッタに視線をさまよわせている。


「お姉ちゃん、ダメかな?」

「い、いや……その……お、男の人を泊めたことない……から」


 フィールの頬の赤みは、体調不良だけが理由ではないだろう。

 フィールが嫌でないのなら、俺もここにいたほうがいざというときに対応しやすいよな。

 オルエッタにわざわざ宿まで来てもらうよりもな。

 ただ、フィールからすれば俺はまだまだ知らない相手だ。泊めることに思うことはあるだろう。


「オルエッタ、あんまり無茶なことを言って困らせないようにな。俺は宿に戻るから」

「……そうですか? 一緒のほうが楽しいんですけど……」


 オルエッタがしゅんとなった瞬間、フィールがはっとなってこちらを見る。

 それから、彼女は腕を組み、視線を外しながら口を開いた。


「別に……構わないわ」

「え!? いいのお姉ちゃん!? ありがとう!」

「ちょ、ちょっと……っ……もう」


 オルエッタがフィールに抱き着き、フィールはそれを苦笑とともに受け入れている。

 ……フィールという人間はオルエッタにかなーり甘いようだ。

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