第88話


 

「……まったく。一人にしてすぐ問題起こすなよ……」


 レウニスさんは、ため息とともに私を見てきた。

 

「れ、レウニスさん……っ! お、お久しぶりです!」

「ああ、久しぶり。それで……大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃないです! 体が痺れて、うまく動かせません!」


 私が状況を的確に伝えていると、一人が苛立ったようにレウニスさんへと飛びかかった。


「呑気に話してんじゃねぇぞ!」


 彼は持っていた剣を振りかぶり、レウニスさんへと振り下ろしたのだが、その間に割って入るように出現した分身が、男の一撃を受けとめていた。

 分身はあっさりと男を弾き飛ばし、男は眉間を歪める。


「……こ、こいつはてめぇのスキルか!」

「……」


 レウニスさんは冷たい目とともに男たちを一瞥した。

 次の瞬間、彼らの足元から分身たちが沸きあがり、攻撃を開始した。


「わ、わああ!?」

「い、いきなりなんだこいつ……はえぇ!」

「攻撃があたら……ぶべ!?」

 

 店内は、それはもう大騒ぎ。

 十人くらいいた男たちは、レウニスさんの分身によって一瞬で無力化されていった。

 全員ぴくりとも動かないけど……殺してはいないはず。たぶん、気絶させたんだと思う。

 

 レウニスさんは私のほうへと来ると、何かを差し出してきた。


「状態異常を回復するポーションだ。飲めるか?」

「……う、うまく動かせないので、飲ませてもらってもいいですか?」


 手を動かそうとしたけど、あまり動かない。

 レウニスさんはびんの蓋を開け、私の口元に運んでくれて……それでようやくマヒを治すことができた。


 自由に体が動くようになったところで、私は先ほど感じていた恐怖も蘇ってきていた。

 もしも、レウニスさんが私のことを気にかけてくれていなかったら、私は……きっと酷いことをされていたんだと思う。


 そう思うと体ががたがたと震えだしてしまい、


「レウニスさぁぁぁん!」


 私はレウニスさんに抱きついた。


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