第87話


「ふーん、そうなんだ」

「なあ、『仮面の英雄』はどんなメリットがあるんだ?」

「め、メリットですか……? え、えーと……その……、い、一緒に冒険しましょう! 私、結構強いので……っ!」


 そう私が言ったところで、


「そっかそっか。結構強いんだね。でもさ、他にもメリットが欲しいんだよな」

「ほ、他ですか……え、えーと……?」

「そんなに悩まなくていいよ? 例えば……オルエッタちゃんが奉仕してくれるとか、でもね?」


 ほ、奉仕?

 私が首を傾げていると、彼らが舌なめずりとともに言葉を続ける。


「ほら、大人同士の体の関係って感じかな?」

「そうそう。もしも、色々させてくれるっていうのなら、オレたち入ってあげてもいいかなって」


 大人同士の体の関係……?

 私が首を傾げていると、隣に座っていた男性が少し苛立ったように私の肩を掴んできた。


「ああ、もうまどろっこしいなおい! その体を使わせろっていってんだよ!」

「だ、だから使わせるって何を……!」

「そりゃあもう、ナニを……」


 私が力を入れて跳ね返そうとしたとき、しかし体がしびれて動かないことに気付いた。

 ステータス画面を見ると、なぜかマヒ状態になっていた。

 男性たちが危機として笑みを浮かべる。


「そりゃあ、このバーはオレたちのテリトリーだからな。さっき出させた水に、痺れ薬を入れてもらってんだよ。どうだ? 効くだろ?」


 私は力を籠めて押し返そうとしたけど、私の気持ちとは裏腹にまったく動いてくれない。

 男たちは私の体を無理やり体を押し倒そうと迫ってくる。

 そのとき、周囲からのからかうような声が聞こえる。


「今日の獲物はその子か」

「次はオレたちにもやらせろよ?」

「た、たすけ――きゃっ」


 必死に絞り出した声は、しかし男に押し倒されたときの衝撃で悲鳴に代わる。

 そのままソファに倒された私の上に、男が乗ってきて笑みを浮かべる。

 カチャカチャとズボンを弄っている男を見て、とてつもなく嫌な予感とともに恐怖が沸きあがる。


 誰か、誰か助けて……!

 そう思うが、声はまったく出てこない。

 

「さーて……まずは…………ん?」


 そのときだった。

 男が眉根を寄せ、テーブルへと視線を向けていた。


 私も視線だけをそちらに向けると……黒い小さな影が動いていた。

 それは、指ほどの小さなものだったが、やがて大人ほどの姿へと変化した。


 あれは……レウニスさんの、【シャドーアバター】……!?

 そう思った次の瞬間、私の上に乗っていた男が殴り飛ばされた。


「がっ!?」

「な、なんだこれは!?」

「この女のスキルか!? おい、全員でこいつを潰せ!」


 ゾロゾロと店内に集まっていた人たちがこちらへとやってくる。

 その時だった。店の入り口の扉が開いた。


「ああ? 誰だこんなときに!」


 一人が苛立ったように叫び、そちらを見る。

 私も釣られて視線を向けると、そちらには……レウニスさんがいた。

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