第16話


 ……【念話】か。

 意識した相手に声を送れるスキルだ。ただ、わりと使い勝手が難しい。

 俺も司書のときに何度か利用したことがあるのだが、こう相手の顔をしっかりと思い浮かべ、魔力を感じ取る必要があるのだ。

 

 相手ごとに魔力は違うため、顔と魔力の両方を覚える必要があるので、結構大変だった思い出がある。


 高ランクのクランの受付ともなると、それこそ膨大な数の人とやり取りをする必要があるだろう。


 【念話】は相手もスキルを持っていないと一方的にしか声を送れないし、相手が拒否すれば一切干渉もできなくなるスキルだ。

 戦闘の際に使用されることは少ないが、その昔戦争などの場面では、部隊の隊長などに支給されていたのだとか。


 そんなことを考えていると、急いだ様子で奥の通路からリベティがやってきた。

 こちらに気づくと、彼女は柔らかく微笑んだ。


「遅れて申し訳ございません」

「いや、別に今すぐ来いとは言っていなかったけど……」


 驚きながら、そう答えるしかない。

 これでは俺が呼び出したかのようじゃないか。


「たまたま、手が空きましたので。それでは、奥の部屋で話をしましょうか」

「……ああ、分かった」


 リベティに案内されるまま、俺たちは奥の通路へと向かった。




「なるほど。ドロップしたアイテムを売却したい、と」


 案内された部屋についたところで、俺はリベティにこちらの事情を伝えた。


「そうだ。お願いしてもいいか?」


 売買に関してだけでいえば、ギルドを利用することも可能だ。

 ただ、ギルドは基本的に周囲から見られる状況になりやすい。

 そうなると、周りの冒険者にいらぬ注目を集めてしまう。

 

「かしこまりました。ただ、我々もすべての商品を買い取っているわけではありませんので……」

「それは分かってる。とりあえず、ドロップ品を見てくれないか?」

「かしこまりました」


 リベティたちだって商売をしているんだからな。

 俺の持ってきたアイテムやスキルストーンが微妙と判断すれば、買い取ってもらえないのは当然だ。


 向こうだって商売をしているんだからな。

 俺はオルエッタを一瞥し、彼女が持っていた鞄を開いた。

 次から次へと、スキルストーンや装備品が出てきて、リベティは目を丸くしていた。

 すべてを出し終えたところで、リベティはあんぐりとした表情でこちらを見てきた。


「……こ、これほどの量どうされたのですか?」


 努めて冷静に答えてはくれたが、それでも声が震えていた。

 ドロップアイテムがこれほどの量になるとは思っていなかったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る