第73話



 俺はこれまで剣一本で戦ってきていたが、今は違う。

 俺は両手に持った剣とともにワーウルフへと接近し、思い切り振りぬいた。

 ワーウルフは俺の一撃を、左腕で受け止めた。


 ……固い。まるで剣と打ち合っているかのような頑丈さだ。

 俺がそろえた剣たちだって、すべてAランク相当の剣たちだ。

 それをいともたやすく受け止めるなんてな。


 僅かながらの不安の後、体の奥底から湧き上がる感情は……喜びだ。

 これまでの相手は、だいたい一撃で仕留めてきていたからな。


 少しは手ごたえもあるだろう。

 俺は【誘い+】を発動し、ワーウルフの注目を集めきってから、後退する。

 俺を追いかけようとしてきたワーウルフは、脇から迫るオルエッタに気づいた。

 ……まさか、挑発系スキルを受けても反応するとはな。


「であああ!」


 オルエッタが持っていたハンマーを振りぬくが、それをワーウルフは軽やかにかわす。

 追撃とばかりに尻尾を振りぬき、オルエッタは回避が間に合わずにハンマーで受け止めて弾かれる。


 俺は即座に【シャドーアバター】を発動し、そいつに【誘い+】を発動してもらいながら、ワーウルフの側面へと回る。


 オルエッタに向きかけていた注意は、俺の分身へと集まり、俺は脇から一気に攻め込む。

 その瞬間、ワーウルフの鼻がぴくりと動き、ぐるりと首が回る。


 これにも反応してくるか。

 厄介極まりない。


 だが、匂いで反応しているとなれば、対策は簡単だ。

 俺は持っていたポーションを放り投げる。

 しかし、ワーウルフはひょいとそれをかわす。

 もちろん、こんな雑な投擲をぶつけられるとは思っていない。


 俺は【シャドールーラー】を発動し、影でもって投げたポーションをつかむ。

 ワーウルフは何か異変を感じ取ったのか、背後へと視線を向ける。


 しかし、それより先に俺は掴んだポーションをワーウルフの顔へと投げつけた。


「があ!?」


 ワーウルフは驚いたように声を上げ、それから顔にかかった液体をぬぐうように手を動かす。

 液体ははじけても、それで匂いまでは取れないだろう。


「こっちに来い!」


 俺は再度【誘い+】を発動する。【シャドーアバター】に使わせてもいいが、やはり俺が使ったほうがスキルの効果は高くなる。

 ワーウルフが顔をしかめながら、俺のほうへと迫ってきた。


 悪戯のような攻撃と俺のスキルによる挑発が、どうやらワーウルフからすればかなり苛立ったようだ。

 完全に俺しか見えなくなっていたワーウルフの背後から、オルエッタが飛び掛かった。


「ガウ!?」


 遅れて、匂いに気づいたようだ。

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