第74話


 完全に鼻をつぶすことはできなかったようだが、反応を鈍らせることはできたようで、俺たちからすればその隙があれば十分だった。


 反応を鈍らせたのは、オルエッタがそもそも柑橘系の匂いが好きなので、普段からわりとMP回復ポーションと同じような匂いを発しているのもあるかもしれない。


「えいやあ!」


 気合とともに振り下ろされたハンマーが、ワーウルフの背中を捉えた。

 崩れ落ちるワーウルフが体を起こすより先に、俺は両手にもった剣でその首を切り落とすように振りぬいた。


 ワーウルフの体は、その瞬間に霧のように消滅し、後にはもう何も残らずに消えていった。

 ふう……。

 どちらも、相手を一撃で仕留められるだけの力を持っていた。


 一つの判断を誤れば、死んでいたのは俺たちだろう。

 ……これが、魔石化モンスター。


 ただ、一つ疑問も残る。

 俺の知っている情報では、魔石化モンスターは……ラグロフが死んだSランク迷宮発生以後に出現するようになった。

 これまで目撃されていなかった?

 あるいは、未来に、変化が出始めている?

 

 それは、俺にとって都合が良いのか悪いのか。

 だが、未来が変わるというのならば……ラグロフの死だって変えられるということだ。

 

「レウニスさん! 見事に連携決まりましたね!」


 ハンマーを体にしまいながら、笑顔とともにハイタッチを要求してくるオルエッタ。

 片手を差し出すと、バシッと強く手のひらを叩かれた。


 【オートヒール】が発動するんじゃないかというほどに気合の入ったものだった。

 見ると、オルエッタは嬉しそうに笑っている。


「さて、さっさと戻ろう。ラーナさんたちも心配してるだろうしな」

「分かっています! 急ぎましょう!」


 俺は【シャドーアバター】を再び発動し、ドロップアイテムの回収と荷物持ちをお願いしてから、迷宮の外へと向かって走り出した。

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