第72話


 迷宮の難易度が高いからか? いや、同じBランク迷宮には何度も潜ってきたので、道中の魔物からBランク相当なのは理解できる。


 ……ならば、また魔物がユニーク化したのか?

 それが妥当な回答か。

 ここのボスモンスターまでは、冒険者ギルドも把握はしていないそうだった。

 高ランクの迷宮だとそういったことはよくある。

 

 調査に派遣された人が、万が一にも命を落とす危険をなくすためだ。

 ピリピリとした違和感が、すっと消える。

 

 その次の瞬間だった。眼前の空間が歪む。

 黒い渦のようなものが現れると、その渦の枠を掴むようにして手が現れる。


 人間とあまり変わりのない手だが、銀色の毛が肌を包んでいる。

 ……ワーウルフに似ているな。

 その予想は、当たった。

 姿を見せたのは、全長三メートルほどのワーウルフだ。


 ……だが、普通のワーウルフとは、違う。

 額に埋め込まれたかのような魔石があり、その周囲の血管が浮き上がっている。


 額に埋め込まれた魔石の魔物……。

 そんなこと、聞いた事が――。


「……いや、そうか」


 俺は一つの記憶を思い出す。

 俺はラグロフが死んだ戦いに目を通したことがあった。

 ……辛いことだったので、読んだのは一度だけだったが……確かそこには、魔石で強化された魔物が大量にいたと記載されていた。


 それらはユニークモンスターとしてまとめられていたが、一つ問題もある。

 それは、こいつらは通常のユニークモンスターの数倍強いということだ。


 冒険者の間では、魔石化モンスターと呼ばれており、出会ったら死ぬ気で逃げろと言われていた。

 

 ここが、本来はBランク迷宮であることを考慮するのならば、Aランク迷宮のボスモンスター相当になっている可能性はある。


「レウニスさん、どうしたんですか?」

「オルエッタ、あいつはユニーク化している。油断するなよ」

「……はいっ! 分かりました!」


 笑顔とともに頷いたオルエッタの表情が引き締まる。

 普段の能天気な笑みとはまるで別人だ。

 普段が可愛い雰囲気だとすれば、集中したときのオルエッタはクールな美人という顔つきになる。


 おそらく、戦闘中のオルエッタしか見ていない人は、彼女の性格を大きく誤解するだろう。

 オルエッタから視線をワーウルフへと戻し、俺は地面を蹴りつけた。

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