第81話



「ただいま、王都より成人の儀、及び能力測定の日が発表されました!」


 そういって、大きな紙を取り出した『アバーク』の冒険者が文字を日付を書いていく。

 そこに書かれていた日付は、七月十一日から、か。

 発表された日付に、会場内沸き立つ。


 成人の儀で欲しい職業などを口にする若者たちを見ていると、彼らの望みが叶いますように、と俺は祈ることしかできないな。


 要件は済んだので、建物から外に出ると、もう夕方だ。

 これから迷宮に行くというのもな。

 たまには、体を休めるのも悪くないよな。


 そんなことを考えながら伸びをして宿へと戻り、食堂へと向かう。


 そこには、すでにオルエッタがいたのだが……彼女はあまり元気のない様子だ。


 食事の速度は……いつもと変わらないのだが、明らかに表情が暗い。

 さすがに心配だった俺は、彼女に近づいて問いかける。


「オルエッタ? どうした? 何かあったのか?」

「あっ、レウニスさん……」


 食事を途中で止めたオルエッタは笑顔を浮かべようとしたのだが、どこか曖昧なものだ。

 やがて、その顔がくしゃっと歪んだ。


「レウニスさん……ごめんなさい!」

「……何に対する謝罪だ?」

「そ、その……今お姉ちゃんが体調を崩してしまっていて……それで、えーと、クランもかなりまずい状況でして……その……」


 オルエッタは涙ぐみながらぽつぽつと語っていく。

 しかし、どこかまとまりがなく、何がどうなっているのかという部分が不明瞭だ。

 オルエッタの背中を摩りながら、落ち着かせるように訊ねた。


「落ち着け。一つずつ教えてくれ」

「は、はい……えーとですね……」


 それからオルエッタは、姉に会った時のことについて教えてくれた。

 オルエッタの姉……フィール・ダムマイアーは、クラン『仮面の英雄』のリーダーを務めている。


 ただ、お世辞にもステータスが高いというわけではないらしい。冒険者ランクはCランク程度であり、中堅クランといったところだ。


 それでも何とか運営できていたのは、フィールが頑張って他クランとの仲を取り持ったり、ギルドとの信頼関係を築いていたからだそうだ。


 昔とった杵柄、とは言わないが、『仮面の英雄』は昔はSランククランであり、やはり知名度は高い。

 そのため、それなりに入団してくれる冒険者もいたそうだ。


 しかし、最近入団した一人の冒険者が問題を起こしたそうだ。それで、唯一誇れていた信頼性さえも失ってしまい、元々入団していた冒険者たちも続々と退団していってしまったそうだ。


 それでも、何とかフィールはクランを維持するため、また信頼回復のために無茶な依頼を受け続け、体調を崩してしまったそうだ。


「お姉ちゃん、クランはもう……畳むって……」

「……そうか」


 オルエッタを呼んだのはその話をするためだったそうだ。

 オルエッタは今は涙こそ流していないが、それでもくしゃりと歪んだままの顔だ。

 今、『仮面の英雄』にはフィールしかいないため、クランと名乗るにはあまりにも迫力がない。

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