第9話


「お客様。身分証明書の提示をお願いします」


 スキルストーンショップの入り口にいた男性が爽やかな笑みを向けてきた。

 彼はこのお店の店員なのだろう。その隣には、強面の冒険者もいる。

 体はしっかりと鍛えられていて、武器や防具もかなりのもののように見える。


 ……スキルストーンは貴重なものも多いからな、

 高値で取引されることも多いため、このように警戒態勢が敷かれているのだ。

 俺が冒険者カードを提示すると、彼はそれを手元の紙にメモした。名前を記録したのだろう。

 俺の名前さえ分かれば、万が一盗難が発生してもギルドと連携して指名手配するのも容易だからだ。


「ありがとうございます。それではごゆっくり」


 にこりと微笑んだ彼に頷きを返し、俺は店内を見て回る。


 久しぶりだな、スキルストーンショップに来るのは。

 店に入ると、棚がずらりと並び、そこに箱が並んでいる。


 箱の中を見てみると、たくさんのスキルストーンが入っていた。

 特に分類されているということはなく、様々なスキルが入っている。

 ……手に持ってみると、どんなスキルなのかが分かるのだが、これ一つ一つ調べていくのは大変だぞ。


 スキルが多すぎて、正直眩暈を覚えてしまうほどだ。

 一つ一つスキルストーンを手に取って、目的のスキルがないかを確認していく。


 今俺が探しているスキルは、三つだ。

 【根性】、【リジェネ】、【劣勢強化】の三つだ。

 俺が暗黒騎士を最強の職業にするために調べた結果がこの三つのスキルだ。


 【根性】の効果はすでに分かっているとおり、どんな攻撃を受けてもHP1で耐えるというものだ。


 【リジェネ】は一定時間経過ごとに、HPを回復するスキルだ。

 これは【ヒール】などでも代用はできるだろう。

 ただ、【リジェネ】は即効性がないため、使い勝手が悪いという理由から値段が少し下がっている。


 【ヒール】はオークションに出されるようなスキルであるため、正直言うとそう簡単に手は出せない。

 だから、しばらくは【リジェネ】でいいかなと思っていた。

 

 最後のスキルは【劣勢強化】系スキルだ。これは【根性】と同じくパッシブスキルであり、条件を満たせば発動するものだ。

 その条件が、HPが一定以下の場合、というものだ。


 例えば、HPが50以下のときに発動ならば、俺は常にその恩恵を得られるというわけだ。

 それを複数つけることで、ステータスを跳ね上げられる。


 これらの知識は前世で司書をやりながら調べていったものだ。

 おかげで、今の俺のスキルに対しての知識量はかなりのものだ。

 手に取ったスキルのすべてが、どのような効果なのか分かるくらいだしな。


 今手に取ったのは、『元気っ子』というスキルだ。

 こんなの見ただけじゃ分からないし、スキルストーンショップの店員に聞いても有名所以外のスキルなんて知らないことの方が多い。


 ちなみに、『元気っ子』の効果は寝つきがよくなるというものだ。

 もしも、不眠に悩まれている人は夜寝るときだけでもこのスキルをつけたらいいだろう。

 

 目的のスキルをしばらく探していき、すべての棚を見終えたところで、俺は店を出た。

 この店に目的のスキルは一つもない。

 スキルストーンショップはまだ他にもある。


 ……あと、四軒か。

 一つの店を見るだけでも、二時間くらいかかったが、頑張るしかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る