第30話
落ち着いた雰囲気の物静かそうな見た目だ。
左肘をつき、腰ほどにまで届きそうな髪の一部分を右手の指に絡めている姿は、なかなか様になる。
……俺が前世で何度かお世話になったときとまるで変わらない。
俺が彼と出会ったのは二十五歳のときだった。今は恐らく二十二くらいだろうか。
ちょうどルーレットが終わったのだろう。
ラーナさんはむすーっと一人静かに頬を膨らませている。
それから、再びチップを弄って次の勝負を始めようとしたので、すかさずブールたちがラーナさんに近づいた?
「じぇ、ラーナさん……ちょっといいですか?」
「ん? ああ、キミたちは確か……ブールたちだね。どうしたんだい?」
冷静な口調とともに、柔らかな微笑を浮かべる。
……ラーナさんって確か女性冒険者からも人気だったよな。
容姿は美人なのだが、その落ち着きはらった様子がかっこいいというのが人気の理由だったはずだ。
ラーナさんはルーレットに賭けながら、ブールたちの方へと体を向けた。
ラーナさん以外にも席についている人はいて、皆が賭け終わったところで、ディーラーが動く。
ホイールを回し、ボールをそこへ置いた。
ルーレットは基本的には運が左右される。……一応、ディーラーによっては狙った場所に入れる技術も持っているそうだが、ここではそういうイカサマはしていないはずだ。
ラーナさんはちらちらとルーレットを眺めながら、ブールと話をしていく。
やがて、ラーナさんの顔が俺へと向いた。
思わずドキリとさせられる微笑が、俺を射抜いた。
「話は聞いたよ? 攻略権の購入のために、私に協力してほしいってことでいいのかな」
「ああ、そうだ。もちろん、ちゃんと報酬も払うつもりだ」
ラーナさんは考えるように顎を撫でている。
「なるほどね。報酬とかについては別に気にしていないけど……キミたちは本当に迷宮攻略できるのかな?」
表情は変わらない微笑だったが、探るような雰囲気だった。
俺もオルエッタも、ラーナさんから見れば若い。
成人の儀の時から優秀なステータスを持つ例外もいるが、それはあくまで一部。
基本的に年齢と冒険者のランクは比例することが多いので、疑われるのも無理はない。
「それは、大丈夫だ。俺もオルエッタも、たぶんあなたが想像するよりもずっと強いはずだ」
「自信ははったりじゃないって感じだね」
おい、ブール。
おまえたちも説得に協力しろ。
そんな気持ちとともに睨むと、意図を察したのか彼らが慌てた様子で頷いた。
「そ、そうなんですよ。ラーナの姉貴。ほんと、レウニスの兄貴は強くて……」
「へぇ……ねえブール。もしかしてこの子たちに何かちょっかいかけたの?」
微笑のままではあったが……怖い。
ラーナさんの威圧を察したのか、ブールたちはそれはもう頭を地面に擦り付けそうな勢いで下げていく。
「す、すんません……ちょ、ちょっと奢ってもらおうとして……」
「そうなの? レウニスくん」
「脅されそうになったな」
「へぇ」
ラーナさんは俺の言葉を受けた瞬間、ブールの頭を笑顔で蹴った。
多少加減はしていたようだけど、それでもブールは地面を転がる。
いくらステータスがあっても、あれは痛いだろう……。
なおも笑顔のラーナさん。怖いです。
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