第66話


「こういった場合……どうなるんだ?」

「【オートヒール】に関して、購入の意思はありますよね?」

「……ああ」

「でしたら、二百万ゴールドで譲りますよ」

「え? 本当か?」

「はい。こちらもご迷惑をおかけしてしまいましたので、相場の最低値で売らせていただきます」

「でも、それだとそちらの儲けがないんじゃないか?」

「そちらに関しては、違法行為をされた人に払っていただきますので」


 にこり、と女性は笑顔を浮かべていたが、オルエッタと違って邪悪さを感じる。

 その時だ。


「ぶべぇ!?」


 残念な悲鳴が聞こえ、視線を向ける。

 扉を破るようにして転がってきたのは、兄だ。

 その奥からは……強面の男性たちが指を鳴らしていた。

 兄はよろよろと立ち上がり、逃げようと背中を向ける。


「失礼します。ちょっと用事ができましたので」


 俺たちを案内してくれていた女性が、兄の方へと移動するとその背中を思い切り踏みつけた。


「ぐああ!? な、何をする! オレを誰だと思――」

「知るかボケェ! 人のクランに散々迷惑かけやがって!」


 ガシガシ、と力強く踏みつける。

 美しい女性の変貌ぶりに、俺は頬を引きつらせるしかない。

 しばらく女性は踏みつけ、満足したのか、明るい表情を浮かべている。


 散々に蹴られた兄は、意識を失ったのかぴくりとも動かない。

 そんな兄は、強面の男性たちに連れていかれる。

 ……まだ、もうしばらくお仕置きはされるようだな。


「申し訳ございません。お話の途中でしたのに。それで、先ほどの話しなのですが……二百万ゴールドで同意頂けますか?」

「ああ。それで大丈夫だ」


 女性の窺うような視線に、俺はもちろん頷いた。

 ビビっていたからではない。

 スキルが欲しかったからの即答だ。


「良かったです。それでは、支払いをお願いしますね」


 女性は取り出した魔道具をこちらに向ける。

 魔道具を持っていない左手には、スキルストーンが握られている。

 俺は冒険者カードを取り出して、言われていた二百万ゴールドを支払った。


 それを確認した女性は、にこりと微笑んでスキルストーンを渡してきた。


「確かに確認しました。こちら、【オートヒール】になります」


 渡されたスキルストーンを確認する。

 ああ、間違いなく【オートヒール】だ。

 すぐにそのスキルを獲得し、ステータスを確認する。


 確かに、【オートヒール】が増えた。

 これで、俺のスキルは四つになった。

 ……当初の計画だった、四つのスキルを獲得できたな。


「それでは、あちら出口になりますのでご案内しますね」

「分かった。……それで、一つ確認したいんだがあの男はどうなるんだ?」

「そうですね。購入できない金額の入札を行った方には、罰としてその半分の金額を支払うルールとなっております」


 ……悪戯な入札をなくすためのルールであり、別におかしなことはない。

 そもそも、金がないのに入札しなければいいだけなんだからな。


「……でも、そのお金もなかったら?」

「うちは、金銭の貸し借りも行っていますので」


 にこり、と微笑んだ。

 ……確か、結構な利子がつけられるんじゃなかったか?

 借金をしている間は、恐らくクランの奴隷のような立場で、こき使われるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る