第76話



 それに、万が一怪我をすれば広報系クランが黙ってはいないだろう。 

 そういうのもあって、ラグロフの育成にはかなり慎重になっているし……このようにたくさんの護衛もつけているのだろう。

 

「分かってるって。ラグロフも、あんまり無茶なことはするなよ?」

「……そうだな。ただ、最近はあまり戦えてなくて物足りないんだ。もう少し戦わせてほしいものだ」


 ちら、とリアを見ながらラグロフがそう言っていた。


「それは……善処します。ただ、ラグロフさんは将来多くのクランと関わっていく身です。今のうちに人脈の構築を行うのも必要なことなんです」


 リアが補足するように言ってくる。確かにラグロフは冒険者には似つかわしくない正装だった。

 

「……ああ、それでその恰好なんだな」


 もちろん、その格好でも戦えないわけではないが、動きは制限されるだろう。

 俺の指摘に、ラグロフはため息をついた。


「ああ、そうだ。さっきもクランリーダーと会食を行ってきたところだ。次は少し休んでから別のクランと、な。正直、最近はこんなことばかりで困っている」

「……我慢してください。傘下を増やせば、それだけ戦力を増やせます。新たなSランククランになるために、とお父様の考えあってのものなんですから」

「Sランククラン、か……あまり興味はないんだがな。それよりも、オレは剣を振っているほうが好きなんだが」

「我がまま言わないでください!」


 ラグロフの独り言に、リアが目を鋭くする。

 ……ラグロフはラグロフで、色々と大変なようだな。

 もしも、ラグロフがもっとレベル上げに集中できるような環境になっていれば、俺が何かしなくても彼は死ぬことはなかったのかもしれない。


 そんなことを考えていると、リアが時計を見た。


「ラグロフさん。そろそろ時間がなくなってきました」

「……まだ、話したりないんだが。面会の時間を遅らせることはできないのか?」

「できませんよ! いくらラグロフさんが特別な立場とはいえ、クランでも同じように扱われるわけではありませんから」

「……はあ。そういうわけだ。済まない。またあとで、ゆっくり話そう」

「……そうだな。体を壊さないようにな」

「……レウニスもだ。いつか共に迷宮攻略に向かおう」

「ああ」


 もちろんだ。

 その日は、遠からず来る。


 それまでに俺は、Sランク冒険者になり、そして――。

 大切な親友の、最悪の未来を変えてみせる。


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