第63話
「シェイナ村かぁ……」
ギルドから一緒に出てくると、ラーナさんがぽつりと漏らすように言った。
少しだけ表情がいつもよりも険しく見えるのは、気のせいではないかもしれない。
「何かあるのか?」
「そのぉ……恥ずかしい話なんだけど、私お父さんと……ちょっと喧嘩しててね。村を飛び出してきたたんだよ。もともと、うちの家系って村の自警団隊長的な役割をしてて……まあ、私も順当にいけば親父の跡を継ぐ予定だったんだけど、それが嫌で……ね?」
ラーナさんは村に留まらず、一流の冒険者を目指したかったのだろう。
村にいても目指せないわけではないと思うが、やはり制限がかかっている状態だとその難易度は大きく変わるしな。
「……ああ、そうなんだな。それでちょっと気まずいって感じか?」
「お恥ずかしながら。どんな顔をすればいいかなって思って。結構お父さん頑固だから、ぶん殴られるかもしれないし……いやぁ、今回は私行かなくてもいいかな? 私いなくても攻略権買えそうだし……」
確かに、俺の評価が上がったこともあり、すでにラーナさんがいなくても依頼を受けられる雰囲気はある。
ただ、今回ばかりはラーナさんは強制参加だ。
「いや、地元の人がいたほうが迷わなくて済むから来てほしい」
「うー、意地悪だねぇ。ん、まあ、了解」
ぶつぶつとそんなことを言っていたラーナさん。
……俺がラーナさんに参加させようとしているのは、前世でラーナさんからある話を聞いていたからだ。
それは、ラーナさんの父親はラーナさんの知らない場所で死んでしまっていたというものだ。
ラーナさんの父親は、ある魔物との戦いの際に命を落としてしまったらしい。
この世界では、身内に連絡を取る方法があまりなく、ラーナさんがそれを知ったのは、ラーナさんの母親がギルドにお願いをしてラーナさんに伝言を残したために伝わったのだ。
だから、俺はラーナさんが家族と会える機会を用意したいと思った。
……それと、ラーナさんが成長するきっかけにもなるかもしれないからな。
というのも、前世のラーナさんは父が亡くなったと聞いてから、村に戻り、そして覚醒をした。
覚醒の条件は全く分からないが、もしかしたら村に何か関係があるのかもしれない。
ラーナさんには成長してほしいと思っていたので、今回の旅には何が何でもついてきてほしかった。
前世で、色々と面倒を見てくれた人への、せめてもの恩返しだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます