第114話
迷宮攻略を終えてから、数日が経過した。
今日は王都に出発するために朝早くにクランハウスを出てきたのだが、
「あの、『仮面の英雄』のレウニスさんですよね!?」
笑顔とともに近づいてきたのは、記者と思われる男性だ。
恐らくはどこかのクランの人間だろう。
ここ最近、こういう輩が非常に増えていて、面倒で仕方ない。
それもこれも、すべてこの前の迷宮攻略が理由だ。
――ベーグルティの街を救った英雄。
ルーベルクたちの簡単な紹介もあったせいか、俺の評価はそんなところで落ち着いてしまっていた。
おかげで、『仮面の英雄』の話題も増え、入団希望者も増えているそうで、フィールは大忙しでクランとしては良い。
だが、街に出るたび記者や街の人たちに絡まれるの面倒すぎる。
ラグロフの心労について理解し始めた俺だったが、今日ばかりはいつもよりも穏やかな気持ちで対応できた。
「悪い。能力測定のために、王都へ向かうんだ。だから、また詳しい話はあとでな」
「の、能力測定ですか!?」
こくりと頷くと、記者はそれを手元のメモ帳に記載し、興奮気味に去っていった。
俺が能力測定を受けるというだけでもそれなりに話題になるのだろうか?
しばらく歩くと、今度はまた別のクランの記者に絡まれてしまう。記者に絡まれると、俺の顔を知らない一般人たちも俺に興味を持ち始め、どんどん囲まれてしまう。
「……これから、能力測定に行くんだ。ちょっと道を開けてくれ」
俺は頬が引きつるのを理解しながらも、笑顔で対応する。
一応、『仮面の英雄』のレウニスとして対応する必要もあるため、あまり雑には扱えないんだよな。
……『仮面の英雄』に入ったのは失敗だったかもしれない。
「レウニスさん、本当に人気者ですね」
隣にいたオルエッタは楽しそうにそんなことを呟いている。
……まったく、相変わらず能天気な奴だ。
能力測定はオルエッタも受ける。フィールは今新規入団者の対応に忙しいため、ベーグルティに待機だ。
フィールは「前回からそんなに変わってないから受ける必要もないし」とは言っていたので問題はないだろう。
ようやく馬車が見えてきて、俺たちはそこへ乗り込む。
一緒に乗っていた冒険者と思われる男性がちらちらとこちらを見てきて、
「あ、あの……! レウニスさんですよね?」
「……え? ああ」
「お、オレ、この前の戦いに参加していたんです! レウニスさんが街を救ってくれたんですよね!? 良かったらサインください!」
彼は持っていた剣の鞘とペンをこちらへと見せてくる。
さ、サイン……?
目を輝かせる冒険者に、俺は頬を引きつらせながら、受け取ったペンでそれっぽいサインを書くしかなかった。
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