第18話



 ゴブリンの巣窟は、縦長の迷宮だ。

 奥にいけばいくほど、出現するゴブリンが強くなっていく。

 それを、ギルドでは大きく第一層、第二層、第三層と分けている。


 この迷宮を最奥まで進むとなると、魔物を無視しても一日近くかかるそうだ。

 だから、途中で睡眠をとることが推奨されている。

 ギルド側で事前に調査してくれているようで、キャンプ地と何か所かが示されている。


 どこを選ぶかはパーティーリーダー次第だ。


 第三層ともなると、Gランク迷宮とはいえそれなりに歯ごたえもあるし、一度に出現する数も増える。

 だから、気を抜かないように、というのがギルド職員からの説明だった。


 だが、攻略班はまったく聞いている様子がない。

 すでに知り合った人たち同士で、どうでも良さそうな会話をしているほどだ。迷宮を攻略した後はどこで何をするか、など、報酬を受け取ってからのことを考えている。


 ここにいる人たちは若い冒険者が多い。

 基本的には俺とそう変わらない年齢だ。たぶんだけど、この前の成人の儀を受けてそのままこの迷宮を攻略しにきているんだろう。


 皆の迷宮に対する意識はかなり低いどころか、まさか自分が怪我をするなんてことも考えていないのかもしれない。

 それを心配する様子で見ていたギルド職員だったが、一通り説明を終えたところで出発の時間となる。


「それでは、こちら必要最低限の荷物を用意しましたので利用してくださいね」

 

 ギルド職員の隣に置かれていた大きめのリュックサックが一つある。

 荷物持ち班代表、となったつもりはないが俺が一歩近づいて中を確認する。

 中に入っていたのは迷宮内の大まかな地図と、ポーション。それと睡眠時に使用するための結界魔石だ。

  

 結界魔石とは、きちんと設置した場合魔物を退ける力がある。

 魔石から放たれる魔力が、魔物を遠ざけるのだが、効果は六時間程度であり、非常に便利だが欠点もある。

 

 一度使用した周辺では魔物もその魔力に慣れてしまった効果が薄れてしまうため、連続使用はできないし、魔石から魔力を放ち、一定の空間に魔物が嫌う魔力を充満させるという特性上、移動しながらでは効果が薄まってしまうため、道中に使うこともできない。


 主に睡眠を取るときなどに利用するものだ。

 ギルド職員が説明を終えたところで、一人の男が面倒くさそうな様子で前に出た。

 俺に突っかかってきた男性だ。


「オレは今回の攻略にあたってリーダーを引き受けたイソルベだ。なんでも、今回受けた中だと一番ステータスが高くて、職業も重戦士っていうので優秀みたいらしいからな」


 イソルベは全員を一瞥してから口元を歪めた。小ばかにしたような笑みに、他の攻略班たちもむっとした様子を見せている。

 先日の成人の儀を参考に、今回はパーティーリーダーを決めたのだろう。


「そういうわけで、おまえたちちゃんと言う事聞けよ? もしも依頼失敗したらおまえたちのせいだからな?」


 イソルベはあまり士気の上がらないような挨拶を終えると、歩き出す。

 それに攻略班たちもぞろぞろとついていくが、まだ俺たちは荷物の山分けなども終えていない。


「イソルベさん。ちょっと待ってください」

 

 俺が声をかけると、彼は苛立った様子で振り返ってきた。


「荷物持ちども、おせーぞ! 待ってる時間はねぇから走って追いついてこい!」


 イソルベは一方的にそう言い放ち、すたすたと歩いて行ってしまう。

 他の攻略班たちも俺たちを下に見るような視線を向けてから歩いていく。


 ステータスが優れているからって、そんなに威張らなくてもいいのにな。

 この攻略、無事に終わればいいんだけどな。


 

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