第12話


 ベーグルティは王都ラスタリアから近い街ということもあって、王都に負けないほどの活気があった。

 さすがに、建物などは劣る部分もあるが、それでも人の量はそう変わらないだろう。


 馬車から降りた俺は、さっそく迷宮へと向かうことにした。

 背負った鞄には、ポーションもいくつか入っているので、何度かダメージを喰らっても回復できるはずだ。


 それなりに大きい鞄なので、戦闘の時には邪魔になるがソロで活動する上では仕方ないことだ。

 街を出て、東に出たところに小山のような入り口を発見する。


 あれが、迷宮だ。


 家の玄関のような小ささなのだが、中の空間は歪んでいるため見た目以上に大きな構造となっている。

 入り口のところにはギルドが設置した看板があり、『四月十五日までに攻略すること!』と書かれている。


 四月十五日か。今日が四月二日なので、もう二週間を切ってしまっているな。

 恐らくギルドは四月十二日あたりから攻略を開始するはずだ。

 もしかしたらもう迷宮攻略の募集をしている可能性もある。先にギルドに行くべきだったかもしれないが、俺も早く戦いたかった。


 レベル上げを終えたら必ずギルドに向かおう。そう思いながら、俺は小山のような入り口から続く階段を下っていく。

 内部は明るい。というのも、壁に魔石が埋め込まれており、それが光を放っているからだ。

 

 階段を下りて行くと、洞窟のような通路へと出た。

 横幅は三メートルほどだろうか? 天井までも高いため、戦闘を行う上で苦にはならない程度の広さだな。

 俺は左腰に差した剣を改めて確認してから、迷宮内を歩いていく。


 迷宮内の構造は様々だ。この迷宮は外とそう気温が変わらなくていいが、中には極寒や猛暑の場所もある。

 やはりGランク迷宮なだけあって、そう迷宮自体が複雑ということはないんだろう。


 迷宮内を歩きながらも、特別緊張はしていなかった。

 これでも俺はユシー家にいた時は優秀な冒険者になるための指導を受け続けていた。

 だから、剣の心得はあるし、戦闘における立ち振る舞いも分かっている。


 それに、前世でも何度か迷宮には挑戦している。

 周囲を警戒しながらも、集中しすぎないようにする。それが、迷宮を歩く上で大切な心構えだ。


 油断はできない。魔物はいつ襲ってくるか分からないからな。

 迷宮内の魔物は、迷宮によって生み出され、壁や地面から現れる。

 迷宮が持つ魔力によって生み出された彼ら魔物は、外にいる魔物と違って倒しても基本的には魔石しかドロップしない。


 ただ、稀に濃い魔力を持つ魔物は素材や装備品をドロップすることもある。

 装備品のドロップなんて本当に稀なことだが。

 

 もしも狙うなら、ドロップ率を上げるとされている職業でもなければ無理だ。

 でも、俺のような外れ職業とパーティーを組んでくれる人なんて滅多にいないだろうな。

 前世の知識を使うなら、ねらい目は占い師とかだろうか。


 本で読んだ限り、占い師は滅茶苦茶強そうに見えたが、不人気職業の一つだった。

 スキルのすべてがランダム性の強いものだからだろう。


 前世の俺の趣味の一つがは、職業に合ったスキル構成を考えるというものだったので様々な職業におすすめのスキルを空で言えるくらいには知識があった。

 ……そもそも、そのスキルの有用性も俺が成人の儀を終えてから、三十年程経ったときに分かったことだしな。


 そんなことを考えていると近くの壁が蠢いた。

 魔物だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る