第102話



 迷宮爆発……つまり迷宮が消滅するときに中にいる冒険者も外へと吐き出される。

 だから、迷宮爆発まで耐えれば、脱出はできるが……今度は外が大変なことになってしまう。

 それを分かっているからか、フィンは首を横に振ってから頷いた。


「ルーベルクさん! あたしは一人でもこの迷宮を攻略してみせます! 待っていてください!」

「……無茶をしないようにね。レウニスくんもいるんだ。彼とともに協力してほしい」

「……大丈夫です。あたしは、一人でも強いですから! それでは、行ってきます」


 フィンは元気に声を上げ、それから階段を下りていく。


「ほら、荷物持ち。さっさと行くわよ」

「……了解。ルーベルク、こっちは心配しないでくれ」


 外にそう語りかけてから、俺は近くに転がっていたリュックサックを背負った。


 分身に持たせてもいいが、MPの無駄遣いはできない。

 俺が持っている鞄にはMP回復ポーションが入っているが、今回は外に出られない以上、考えて使う必要がある。


 フィンは毅然とした足取りで進んでいくのだが、その背中はいつもよりも元気がないように見えた。


「フィン。少人数での迷宮攻略は初めてか?」

「……そうね。まあ、安心しなさい。あたしはこれでもかなり強いわ」


 階段を下りた先は、平原のようになっていた。

 ただ、奥のほうは木々が生い茂っていて、ボスフロアへと繋がる道がどこにあるのかは分からないようになっていた。


 しばらく歩いていったとき、近くの空間が歪み、魔物が出現した。

 銀色の毛並みを持つウルフだ。


 だが、その様子は通常の魔物とは違い、額に魔石が一つ埋め込まれている。

 ……こいつは、まさかトレント迷宮で見た奴と一緒か?

 俺が眉根を寄せていると、フィンが刀を構えた。


「……見たことない魔物ね」

「気をつけろ、フィン。たぶん、ユニーク化した魔物だ」

「ユニークモンスターってこと? ……確かに、そうね」


 ウルフが飛びかかってきたが、その速度はかなりのものだ。

 Bランク迷宮に出現する魔物とは思えない速度であったが、フィンは攻撃をかわし、俺も横に跳んでかわす。

 フィンは大きく息を吸ってから、呼吸を止めた。彼女の周囲だけが、まるで音が消えたかのような静かになり、次の瞬間ウルフへと一瞬で迫り、その体を斬りさいた。


「まあ、あたしの敵じゃないわ。さっさと行くわよ」


 息を吐いたフィンは、刀を鞘にしまって歩き出す。

 ……Bランク冒険者、といっていたが、Aランク……それも、Sランクにかなり近い力を持っているのは確かだな。

 ただ、俺たちはこの迷宮の構造を知らない。闇雲に進んでも仕方ないので、彼女を呼び止める。


「フィン、ちょっと待ってくれ」

「何よ。急いで攻略しないといけないのよ?」

「……だから、ちょっと待ってくれ。俺の分身たちに迷宮の構造を調べてもらう」

「……迷宮の構造を? あんた、そういうスキル持ってるの?」

「迷宮内をマッピングできるわけじゃないんだが、似たようなスキルではあるな」


 俺の言葉にフィンが首を傾げる。

 実際に見せたほうがいいだろうと思い、俺は【劣勢強化・魔力】を二つセットしてから、【シャドーアバター】を発動する。

 分身を三体ほど召喚したところで、フィンが怪訝げにこちらを見てくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る