第79話


 俺が知っているのは本当に大まかな歴史と、多少の知識のみだ。

 未来が見える、というのは大げさな言い方になってしまったかもしれないな。


「あっ、もしかしてSランク冒険者になって助けたい人がいるって言っていたのも、それと関係あるんですか?」


 小首を傾げるオルエッタに、頷く。


「ああ、以前ラグロフっていう冒険者とあっただろ? 覚えてるか?」

「あっ、分かります。なんだかお付きの人がうるさかった人ですね!」

「そうそう。俺の知っている未来だと、ラグロフはもうすぐ発生するSランク迷宮攻略の際に死ぬんだよ。……それを、どうにかして変えたくてな」

「……し、死んじゃうんですか?」

「ああ。そのときの俺は、何の力もなかったから……力をつけて彼だけでも助けたいと思ってる」

「……分かりました! 私も全力で頑張りますね!」


 ぐっと拳を固めてそういったオルエッタに、俺は苦笑する。


「……そうか、ありがとな」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます!」

「オルエッタがお礼を言うことはないだろ?」

「相談してくれたことです。私も力になりますからね!」

「……ああ、ありがとな。それとこれは、内緒にしておいてくれ。変に思われるかもしれないからな」

「分かりました!」


 オルエッタに相談したことでか、俺は少しだけ肩の力が抜けたような気がした。





 シェイナ村での用事も終わったので、俺たちは王都へと戻ってきた。

 ブールたちにももう荷物持ちは必要ないということを伝え、俺たちは二人でギルドへと向かった。

 いつものように攻略を終えた報告をギルド職員にして、帰ろうとしたところだった。


「あっ、オルエッタ様少しいいですか?」

「え? なんですか?」

「あの、オルエッタ・ダムマイアー様で間違いありませんか?」

「はいっ、そうですけど……」

「お姉さんの、フィール・ダムマイアー様から伝言を預かっていまして、話がしたいそうです」

「お姉ちゃんからですか!?」

「こちら、フィール様からお預かりしている手紙になります」


 個人への連絡手段は、このように行うしかないものだ。

 ギルド職員は手紙を取り出して、オルエッタへと渡した。

 それで話は終わりのようで、俺たちは受付から離れる。

 オルエッタは手紙を取り出して、確認していく。ふんふん、と何度か頷くようにして、それからぱっと明るい表情の顔を上げる。


「お姉ちゃんがクランハウスで待っているそうです。……クランハウスはベーグルティにあるんですよね」

「なら、とりあえずベーグルティに行くか?」

「い、いいんですか?」

「別に、そのくらいはな」


 ベーグルティの近くにも迷宮はあるしな。

 攻略間近のものがあるかは分からないが、オルエッタの用事に付き添うくらいは問題ないだろう。


 それに、そろそろ能力測定の明確な時期も分かるはずだ。

 迷宮に潜らなくとも、ベーグルティでその情報集めでもしていればいいだろう。


 予定が決まった俺たちは、次の日の朝に王都を出発した。

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