第56話



「オルエッタ、宿はどうするんだ?」

「迷宮攻略があったので、今は宿を取ってないんですよね。一緒に行動しますし、一緒の宿を借りたほうがいいですかね?」

「……そのほうが、たしかに合流はしやすいが……そうだな。探しに行くか」

「はい!」


 男と女だと、宿を借りる場合の選ぶ基準が違うことが多い。

 男性は、宿にそこまでを求めない。寝床がちゃんとあり、雨風凌げればそれでいい、なんてこともある。


 女性は清潔な宿を選びたがるため、それなりに質の良い場所になりがちだ。

 まあ、下手な場所に住むと、特に若い女性は厄介ごとに巻き込まれやすいからな。

 

 俺も今は金を持っているので、ある程度質の良い宿にしようと思う。

 高い宿は基本的に客のグレードも上がるからな。


 それから何件か回っていき、部屋が余っていた宿を見つけたのでそこに決めた。

 部屋の前の廊下にて、オルエッタがちらとこちらを見てくる。

  

「夕食はどうしますか?」

「悪い。俺、日課の筋トレをしてくるから、先に食べててくれ。明日の朝、九時にここで集合でいいか?」

「日課の筋トレ! いいですね! 私もやってるんです! 朝と夜に! ご一緒してもよろしいでしょうか!?」 

「……別にいいけど、ペースを合わせるつもりはないぞ?」

「ふふふ、私だって負けませんよ。それじゃあ、荷物置いて集合しましょう!」

「……了解だ」


 オルエッタは自信ありげな顔をしている。

 ……そういえば、彼女はステータスも非常に優秀なようだし、結構しっかり鍛えているのかもしれない。


 ステータスの関係もあって、男性と女性に身体能力での差はない。

 体の作りなどで動きやすい、動きにくいはあるかもしれないが、あくまでそのくらいだ。


 荷物を置いた後、俺はオルエッタとともに外へと出た。

 軽い準備体操をして、それから俺たちは夜の街を駆けだした。



 ……オルエッタは、かなりの筋トレマニアのようで、俺のメニューにもしっかりとついてきた。

 これは、負けられないな。




 次の日。


「これからの予定って何か決まっているんですか?」

「とりあえずはDランク、Cランク迷宮でレベル上げをしようと思っているところだな」


 それと、オークションの予定も見たいんだよな。

 オークションは、毎週日曜日に王都で開かれている。

 全国から有名な商品が集められ、毎週日曜日の朝から販売されるのだ。


 日中は装備や道具が売り出され、夜は……奴隷などの売買も行われている。


 オークションなら、広報系クランに行けば分かるかもしれない。

 広報系クランはいくつかあり、彼らはスキルによって新聞を製作している。

 世の中の様々な情報を新聞記事にして、売り出しているのだ。

 週に一度、あるいは号外が出ればその場で新しく作成される。


 その記事の一つに、オークション系もあったはずだ。 


「Dランクですか! レウニスさんだともう一人で戦えちゃうんですか?」

「ステータス的には大丈夫かもしれないが、実際にやってみないと分からないがな。……とりあえず今日は冒険者ギルドと広報系クランに行って、情報を集めてもいいか?」

「分かりました!」

「その間に、オルエッタは一人でEランク迷宮に挑戦してレベル上げをしているといい」

「了解です! Eランク迷宮ってまだいくつかありますもんね」


 にこにこと楽しそうにオルエッタが頷いている。

 イストキンの街近くにはいくつか迷宮があるため、今なら初心者冒険者も行動しやすいだろう。

 オルエッタのステータスは、メンバー表で見たときでオール400程度あった。


 装備品も優秀なので、オルエッタなら問題なくレベル上げできるだろう。


「あまり無茶はしないようにな。奥には絶対行かないこと。いいな?」

「はい!」

「あと、他の冒険者の邪魔をしないように。誘われても、断るように。一人の方がレベル上げしやすいんだからな」

「分かっています!」


 一人の方がレベル上げも捗るとはいえ、だいたいの冒険者はパーティーを組む。

 一人で魔物を狩るのは大変だからだ。ソロで活動するとなると、難易度を落とす必要があり、難易度を落とすとそれだけ手に入る報酬も減る。

 迷宮で得られる報酬や、将来的なことを考えればやはりパーティーで組んだほうがいい。


「そういえば、職業は占い師だったよな? スキルポイントはどんな感じに振っているんだ?」


 占い師は、未来では引く手あまたの最強職だ。

 ただ、それにはきちんとしたスキルポイントの割り振りが必要であるため、オルエッタの現状を知っておきたかった。


「それが、迷っちゃってまだ振ってないんです! 何かこれがいい! っていうのを知りませんか?」

「……色々と知っているから、とりあえずスキルポイントは割り振らないでそのままにしてもらってもいいか?」

「分かりました!」


 オルエッタは無邪気に首を縦に振っている。

 ……見た目は大人、中身は子ども。

 まさにオルエッタはそんな感じだ。少し足りていない部分も感じられたが、でも無邪気で人に質問できるのは才能だ。


 占い師のスキルは、攻撃よりも補助に向いたスキルが多い。

 ……そして何より、問題はそのスキルの成功確率だ。

 どのスキルも成功、失敗があり、成功した場合はより効果が強くなり、失敗した場合は何かしらのデメリットを負う。


 例えば、力強化を行うスキルがあったとしても、成功した場合は+10、失敗した場合は-10みたいな感じだ。


 そのため、まだこの時代では不人気職業として有名だ。

 だが、占い師は唯一無二の、ドロップ率強化系スキルも取得できる。

 そんなことを考えながら、朝食を食べていった。

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