第25話
「厳しいと思うな」
「だ、だよね……? なら、やっぱり休みの提案をした方がいいかな?」
「いや、今ここで休みの提案をしても全員に突っぱねられるだけだ。とりあえず、誰かのステータスが破壊されるのを待とう」
「え? そ、それって危険なんじゃ……」
「ステータスの再生はだいたい6時間ほどだし、結界の時間とほぼ同じだから問題ないと思う。それに、提案のやり方次第ではイソルベも誘導できるだろうしな」
「提案のやり方次第?」
「まあ、そこは俺がうまくやるから。二人は怪我しないようにな。大変なら荷物いくらか持つけど?」
二人の歩みも遅れていたので提案してみたが、ミーナとルファンは首をぶんぶんと横に振った。
「そ、そんなことできないよっ。レウニスさんには戦闘面で助けてもらっているんだし……」
「うん……むしろ、にがもっと力があればレウニスくんの荷物を負担したいくらいだし……」
ルファンがそんな発言をした理由は俺が背後に現れたゴブリンの処理をしているからだ。
まあ、第二層のゴブリンの経験値を独り占めできるのは悪くないと思っているので、そんな気にしなくてもいいんだけど。
「気にするな。今のまま頑張っていこう」
微笑とともにそれだけを返し、俺は鞄を持ち直した。
うん、いい感じに筋肉が疲労し始めたな。
この感覚がたまらない俺としては、別に荷物持ちも苦ではないのだ。
荷物を持とうか、という提案も彼らを助ける気持ち半分、もう半分はトレーニングの意味もある。
今回の迷宮攻略の間は、力と体力のステータスが伸びている。
これは良いトレーニングなのだ。
第三層へと入った瞬間だった。
体が思わず震えるほどの、嫌な感覚を味わった。
すぐに周囲へと視線を向けるが、別段何か変わったことはなかった。
「どうしたの?」
「いや……別になんでもない」
ミーナは首を傾げていたが、俺のように何かを感じとった様子はない。
ここから先は、さらに魔物も強くなる。
それを俺が意識しすぎているからだろうか?
どちらにせよ、イソルベたちが足を止めることはない。
より警戒を強め、ついていくしかない。
第三層をしばらく歩いたときだった。
ゴブリンが地面と壁からぬるりと現れる。
出現した数は……八体か。
とうとう、こちらの人数よりも多い。
「おい、おまえら! さっさと狩るぞ!」
イソルベが声を上げ、剣を抜いた。各々が武器を持ち、ゴブリンへと突っ込んでいく。
ゴブリンもまた、抵抗するように持っていた棍棒を振り回している。
ゴブリンたちに連携できるような頭脳はない。向かってくる敵に、思いのままに武器を振るだけ。
だから、上手く立ち回ればゴブリン程度なら、たとえ数で不利を取っていても負けることはない。
だが、イソルベたちも負けず劣らずだ。
連携なんてなく、それぞれが自由に攻撃していくのだ。
火力があれば問題ないが、まだレベルが低いこともあり戦闘能力は高くないため……苦戦を強いられる。
「あが!? いっでぇ!」
攻略班の一人がゴブリンに殴られ、HPを削られる。
一人が崩れると、ゴブリンたちは喜んだ様子で声を上げた。
「おい! 何やってんだ! チッ!」
イソルベが表情を険しくしながら、剣を振る。その一閃でどうにかゴブリンを仕留める。
イソルベはさすがに大手クランに入る資格を有しているだけはあり、第三層のゴブリン相手でも戦えている。
いや、他の人たちも疲労していなければ、もっとまともに戦えているはずだ。
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