第50話



 投擲したのは、別に最後のあがきによるものではない。

 すべての武器を失ったと思わせ、スケルトンナイトを油断させるためだった。


 相手を油断させるために、俺は全力で弱者を演じた。

 せこい戦い方だろう。

 何と言われても、俺は勝たなければならない。

 生きて生きて……そして、ラグロフの死の未来を変える必要がある。


 こんなところで、死んでたまるかってんだ。

 スケルトンナイトは、回避しようとしたが、間に合うはずがない。

 振り下ろしたハンマーの一撃を受け、吹き飛んだ。その衝撃は間近にいた俺にまで響き、俺も弾かれる。


 だが、まだ終わったとは思っていない。

 倒れていたスケルトンナイトへと、俺は影を操作してハンマーを叩きつける。


 叩く、叩く。

 やりすぎだと思われようとも、ここで確実に仕留める必要があった。

 もう二度と、今のようなチャンスはないだろうからな。


 残っていたMPのすべてを使い切ったところで、俺は痛む体を引きずるようにして、スケルトンナイトへと近づいた。


 全身が粉々になっていて、もう動く気配はない。

 ポーションを飲んでHPの回復、同時に傷の治療を行っていると、スケルトンナイトの体が霧のように消えていった。


 ……勝った。

 喜びよりは、安堵のほうが大きい。


 ……紙一重にもほどがあるってんだ。

 格上との戦いは確かに楽しいと感じる部分もあったが……できれば二度とやりたくはないな。

 俺はへなへなと地面に座り込み、スケルトンナイトの死体があった場所を確認する。


 そこには魔石と剣が一本あった。

 剣は、スケルトンナイトのドロップ品だろう。

 彼が使っていた長剣ではなく、俺が持っている剣と同じようなサイズのものだ。


「ナイトソード、か」


 装備に関しては商人に見てもらってからだが、良い剣だと思う。

 武器の新調を考えていたので、呪われていない限りはこれを新しい武器にすればいいだろう。

 そんなことを考えていると、


「レウニスさん……っ!」


 バタバタと走り寄ってきたのは、オルエッタだ。

 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 ぎゅっと抱き着いてきて、全身をぺたぺたと触ってくる。


「い、痛い! まだダメージが残ってるんだ、触るな!」

「はっ! すみません! 痛い場所がないかと思って! 大丈夫ですか!?」

「さっきの話し聞いてたか!? 体が痛いんだよ……!」

「それでは、治療しますよ!」

「ち、治療できるのか?」

「ポーションがありますからっ。ちょっといい奴なので、これ使ってください!」


 さっと、オルエッタがポーションを差し出してくる。

 ……俺が使っている下級ポーションではなく、それは上級ポーションだ。

 確かに、これなら飲んで少し休めば回復するだろう。


「……いいのか? 結構な値段じゃないか?」

「命を助けてくれた人に、そんなの気にしている場合じゃないと思います」

「……そうか、それならありがたく飲ませてもらうよ」

「はい! それは特別製ですので、一本五万ゴールドくらいです! がぶっと言ってください!」


 値段を言われると飲みにくなるのでやめてくれないか?

 それでも、この痛みを押さえるために、俺は口に運んだ。最悪、あとで五万ゴールドならば支払えるだろう。

 第一、外にはベヨングたちが控えている。


 不安要素は取り除いておきたいからな。

 傷はすぐに引いていき、何度か深呼吸をしたところで完全に治った。

 さすがだな、上級ポーションは。


 俺が立ち上がったときだった。入り口の壁が崩れ、そちらからぞろぞろと『ピアスアーマー』の者たちが入ってきた。

 彼らは俺たちに気づくと、険しく眉間を寄せる。


「……なんだ? まだ、三人とも生きているのか?」


 すっかり口調の変わったベヨングが、こちらを睨みつけていた。

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