第74話


 ラグロフは、口調こそ冗談めかしたものだったが、その迫力は本物だった。

 さすがに女性も、ラグロフを刺激したくなかったのだろう。おずおずといった様子で頷いた。


「……し、失礼しました。で、ですが心配ですし……その、近くで見守らせてください……っ」

「……はあ、まったく。オレは友人とも気楽に話ができないのだな」

「ラグロフさん……。もう自覚してください。あなたは今、世界中が注目しているんですよ? 数年ぶりのSランク冒険者が誕生するかもしれない……って。それに、あなたの行動次第では、命を狙われる可能性だってあるんです。もう少し、警戒をして――」


 Sランク冒険者の誕生を皆が素直に喜ぶばかりではない。

 ラグロフが所属するクランが力をつければ、自分のクランが脅かされる可能性もあるからな。

 有望な冒険者が不慮の事故でなくなることもあり……怪しい事件というのは過去にもいくつかある。

 ラグロフはため息をつきながら、女性を押しのけるように肩を掴んだ。


「分かった分かった。すまないな、レウニス」


 ラグロフは疲れた様子で女性の話を打ち切り、こちらへと顔を向けてきた。


「大変そうだな。さすが、新聞の一面を飾るだけはあるな」

「……レウニスまでそういう扱いをするのか?」


 ラグロフは少し拗ねたように顔を横に向ける。


「冗談だ。オルエッタ。少し友人と話したいから、先に迷宮に行っててくれるか?」

「別に、待っていますよ?」

「色々とやりたいことがあるから、ここからは別行動にしてくれ」

「分かりました。それでは、またあとで」


 ゆったりとした様子で片手を振った彼女は、のんびりとした足取りで歩いていった。

 彼女の背中を見送っていると、ラグロフがじっとオルエッタを見ていた。


「……あの人は、ダムマイアー家の次女か?」

「知っているのか?」


 基本周りに興味を持たないラグロフが珍しい。

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