第59話


 そこから中に入ると、呼吸も問題なくできるようになる。一体どういう技術なのかは知らないが、中では【水中呼吸】も必要がない。


「ほんと、迷宮って不思議なところだな」

「そうですねっ。ここでならスキル構成もいつもと同じにしていいんですよね?」

「大丈夫だ」


 水を払うように体を震わせていたオルエッタに頷く。

 中は一本の通路があり、そこからボスフロアが見えた。

 本当にボスモンスターまでが短くて助かるな。

 海底神殿ということから、この迷宮攻略は不人気であったのだが、これでAランク迷宮のボスモンスターの経験値を得られるのなら、とてもお得だと思う。


 ボスフロア前まで移動した後、一度休憩を挟む。 

 そこでスキル構成を見直し、俺は【水中呼吸】を外し、【劣勢強化・速度】をつける。

 ボスフロアの攻略はいつも通り、俺とオルエッタで行うつもりだ。

 だから、隣で休憩をとっていたオルエッタへと視線を向ける。


「オルエッタ、もういいか?」

「いつでも大丈夫ですよ!」


 頼りになるな。


「それじゃあ、行ってくる」

「頑張ってねー」


 ラーナさんたちに見送られながら、俺たちはボスフロアへと踏み込んだ。

 ボスフロアに現れた魔物は、全長四メートルほどはありそうなサハギンだ。


 腹はぶくっと出ているが、腕や足などは力強さが伺える張りがある。

 サハギンキングだ。

 キングを示すかのように頭には王冠のようなものが乗っている。

 

 サハギンキングは右手に持っていた巨大な槍を振り上げる。


「ギャギャ!」


 威嚇するように声を上げ、こちらを睨んできた。

 たいそうな様子で出てきたが、あまり無駄な時間を割きたくはない。


「オルエッタ、俺が突っ込んで一撃をあてる。仕留めきれなかったら、援護頼む」

「分かりました!」


 俺はオルエッタにそれだけの指示を飛ばしながら、この一ヵ月で新たに獲得したスキル【シャドーアバター】を発動する。


 このスキルは【暗黒魔法】のレベルを上げていったことで獲得したものだ。

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