第68話


 バルーダがそう嘘をついたのか。

 あるいは、父がそのようにしてバルーダに対しての風評を払拭したいのか。

 どちらにせよ、俺はため息を吐くしかない。


 本当に俺が詐欺を行っているのなら、動くのは私兵ではなく、正式な機関だ。

 騎士か、あるいは『影の者』。


 別に彼らを退けても良かったのだが、今ここで逃げてもどこまでも追いかけてきそうだ。

 ならば、一度しっかりと話し合いをしたほうがいいだろう。


「大人しくついていくから、武器はしまってくれ」

「そうか」


 あっさりと彼らは武器をしまい、どこか馬鹿にしたような目を向けてくる。

 ……ああ、そうか。

 彼らは俺の成人の儀でのステータスを知っているんだったか。

 だから、別に武器を使わずとも制圧できると思っているんだろう。


「あれ? どうしたのですか?」


 部屋から出てきて、きょとんとした様子でこちらを見るオルエッタ。


「ちょっと、貴族に呼ばれて出かけてくる。今日は自由にしていてくれ」

「分かりました。それではご一緒しますね」

「……いや、レベル上げにでも行って来たらどうだ?」

「いえ、そうは行きません。何やら深刻そうですし、お力になれることがあるかもしれませんし」

「……」

 

 オルエッタが来たところで、事態が改善するとは思えない。

 でも、昨日の状況説明を一応はできるだろうし、本人が嫌でないのなら来てもらうのもありか。


「分かった。面倒になったら帰ってくれて構わないからな」

「はい。よろしくお願いしますね」


 ぺこりと、兵士に深く頭を下げる。

 兵士たちは、オルエッタの美貌に見とれたようで、どこか緊張した様子で頭を下げていた。




 久しぶりに、屋敷へと戻ってきた。

 といっても、実に二か月ぶりくらいだ。

 貴族が遠くの学園に通う場合は、長期休暇くらいしか戻らないのだから、それに比べれば早い帰還だ。


 俺が通されたのは面会室だ。

 部屋に入ると、兄と父がいて、鋭い目を向けてきた。

 俺が部屋に入ってすぐだった。父がこちらへやってきて頬を殴りつけてきた。

 ……いてぇな。

 HPは1で耐えている。とりあえず、【オートヒール】を発動した。


「貴様……ッ! バルーダを騙し、酷い目に合わせたらしいな!!!」

「……何のことだ?」

「とぼけるつもりか!? 昨日、オークション会場でバルーダにわざと入札させたらしいじゃないか! それも、法外な値段で! それが原因で、バルーダがどんな目に合ったのか知っているか!?」

「美女やおっさんに蹴られるのを楽しんでいたんじゃないか?」

「そんなわけがあるか!」


 さらにもう一発、頬を殴られる。

 痛みはあったが、【オートヒール】ですぐに治療される。

 さらに殴ってこようとしたので、その手首を掴みあげた。

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