第69話


 昔は優秀だった父だが、不摂生と老いから、すでにステータスはかなり衰えていると聞いている。

 だから、今の俺でもあっさりと止めることができた。

 少し力を籠めてやると、たちまち彼の表情が変わる。


「うぐ!?」


 驚いたように父は手を引こうとした。俺がぱっと手を離してやると、彼はさらに顔を鋭くした。


「油断していたとはいえ、反抗するとはいい度胸だな……!」

「なんでもいいけど、それで俺を呼びつけてどうしたいんだ?」


 俺を殴るためだけに呼んだ、とは思えない。

 他に何か理由があるはずだ。


「まずは、謝罪だ。そして、バルーダのクランである『獅子の牙』と『アルケイク』にも正しい情報を伝え、謝罪しろ。そうすれば、バルーダはクランにも戻れるし、金の支払いだっておまえの責任にできるからな」

「……は? クランに戻る? 金の支払い?」

「は? じゃない! 貴様が騙したせいで、我が家は三百万ゴールドの支払いを行ったんだぞ! 何より、バルーダは『獅子の牙』を追放された! 貴様がきちんと事情を説明すれば、すべてなかったことになる……正確には、すべての責任を貴様が負うことになるというのが正しいか。とにかくだ、今すぐ謝罪に向かうぞ!」


 ……本気で言っているのだろうか?

 仮に俺が騙していたとしても、あんな簡単にクランの金を自分の物のように使う奴を戻すわけないと思うが。


「……行ったとしても、俺はこう言うだけだぞ? 『バルーダが、俺に対抗しようとして、金がないのに見栄を張った』って」

「ふざけるな! まだそんな減らず口を言う気か!」


 父がさらに殴りかかってこようとしたが、それを兄が止めた。


「父さん。ここからはオレに任せてくれないか」


 兄そう言って、俺の前へとやってきた。

 彼は鋭くこちらを睨み、それから口角を吊り上げる。


「さっき、父さんがああ言ったが……協力する気はないんだな?」

「だって、俺にメリットないだろ?」

「ああ、そうか。そうかよ。それなら、決闘でケリをつけるってのはどうだ?」


 兄がからかうように笑ってきた。

 

「決闘?」

「ああ、そうだ。もしもオレが勝てば、先ほど父さんが言った行動をしてもらう」

「もしも俺が勝ったら?」

「ありえないことについて考えても意味ないだろ?」

「それなら、決闘を受ける意味が俺にはないな」

「……はぁ、まったく。なら、何がいいんだ?」


 そうだな。

 金銭でも要求すればいいが、兄を助けるために今はかなり金を使ったことだろう。

 ならば、次に良いのは――。


「俺と決闘したときに、おまえが身に着けていた装備とスキルをもらう」

「はっ、いいぜ。それじゃあさっさと決闘をしようぜ」


 ……ラッキーな展開になったな。

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